もやもやレビュー

映画の新時代Netflix『ROMA』

『ROMA』 Netflixにて配信中

ついにNetflixで鑑賞した作品を紹介する日がやってきた。
それも、アカデミー賞で最多10部門にノミネートされ、監督賞、外国語映画賞、撮影賞を受賞という快挙をなしとげ新時代を作り上げたといっても過言ではない作品だ。
アルフォンソ・キュアロン監督は前監督作『ゼロ・グラビティ』に続いてアカデミー賞という舞台で2度目の監督賞を受賞。もう、これは本物としかいいようがない。
劇場での公開にこだわる監督もいれば、作品を少しでも多くの世界中の人に配信したいと考える監督もいる。この問題に正解も間違いもないのだろう。
『ROMA』に関しては監督が個人的にどうしても自分を育ててくれたリボというお手伝いさんへ届けたいメッセージがあり製作された作品なのだ。そんな理由や無名の俳優ということもありNetflixという配信方法にしたのかもしれない。今年のアカデミー賞にノミネートされている作品が日本では劇場未公開のままNetflixという動画配信サイトで視聴できると知った時は驚いた。
さらに、結果的にはアカデミー賞の受賞をうけて配給会社を経由しない新しいルートを開拓し映画館での公開にまでいたっている。

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そんな本作がどのような作品かというと、
舞台は1970年代メキシコシティのローマ地区。主人公クレオはソフィア夫婦とその子供4人、祖母テレサの住む家で住み込み家政婦をしている。普段は家の掃除や子供の世話などをして過ごし、たまにはデートをしたり普通の女性として楽しむ一面もみられる。作品の序盤はクレオの起床から睡眠までの日常が描かれる。それと、平行して少しずつ夫婦仲がうまくいっていない様子があきらかになっていく。そして、クレオ自身にも、大きな問題が発生する。


監督自身はこの家族の子供として描かれている。大人になった今だからこそ無邪気だった子供時代を思い返して乳母への思いをまとめたのがこの作品だったのなら素晴らしい。
作品の全てがカメラを左右に動かし遠くから眺めているように撮影されている。画面手前で起きていることは子供時代に自分が見ていた景色であるが、奥ではその時にはわからなかった様々な出来事が描き出されている。だけど、劇中ではだれも説明しないし、一度鑑賞しただけではなにが起きていたのか詳細はよくわからない。なにか起きていたことだけぼんやりとわかるくらいの子供目線で全ての物事を鑑賞することも出来るし、後から調べてわかるのは大虐殺事件が起きていたことを描いていたのだということ。

次にこの作品の特徴はモノクロ映画であることだ。あまり映画をみない人にとってなんだかこれを聞いただけでハードルがあがる。数年前からモノクロ映画をとる監督が増えている。モノクロ映画はもちろんずっと白黒なのだけど、どの作品も鑑賞後に思う共通点がある。それは、空が青くみえたり、洋服はこの色だったのではないかな?と自分の中でぼんやりと無意識に色塗りして鑑賞している。画面がピカピカ光るアクション映画をみることが多いのでなんだかとても目に優しく、無駄な演出はないので作品の世界のなかにより入り込みやすいという利点もある。

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映画を全体的にみて明暗が非常にはっきりと描かれている。子供達はクレオに大好きなどと言って家族の一員のように接してはいるけれど、実際にクレオの個人情報を聞かれたら家族は全く答えることは出来ないという現状が描かれている。表面上は家族の一員とするも本当の深い部分ではクレオは家族に本音も言えない。一緒に休暇を過ごそうとクレオも一緒に旅行に連れ出すも結局、旅行先でも荷物持ちとして扱われている。家族としてはそれに悪気もなさそうだからまた憎らしくも感じる。

映画の始まりは、車庫にされた犬の糞の清掃のシーンからはじまり長い時間床を眺めていることになる。中盤では車庫が糞で汚れているのに誰も気づいていないように過ごしていて、放置されている。まるでみたくはないものの象徴のような存在でとても印象的であった。
これもすべてはラストシーンへとつながるよく考えぬかれた演出だった。

この作品は一見お手伝いさんの日常をぼんやりと眺めているだけの退屈な映画のように思えた。その出来事ひとつひとつ意味のある出来事であったということが点と点をつなぎ合わせるかのように徐々にあきらかになるという手法がとても上手い。
派手な演出はないけれどじんわり心に残る名作だ。

(文/杉本結)

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Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』
独占配信中

監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:ヤリッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ、マルコ・グラフ、ダニエラ・デメサ、カルロス・ペラルタ

2018/メキシコ・アメリカ合作/134分
公式サイト:https://www.netflix.com/title/80240715

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