感動するゾンビ映画? 新人監督&無名俳優による映画『カメラを止めるな!』
『カメラを止めるな!』 6/23(土)より新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサにて公開!
死体のまま蘇り、誰彼構わず人間に襲いかかる「ゾンビ」。もちろん現実には存在はしておらず、作品ならばとつい興味本位や怖いもの見たさで観てしまいたくなるもの。
ゾンビ映画といえば、その先駆けともいえる『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年、アメリカ)や、ミラ・ジョヴォヴィッチの迫真の演技が光る『バイオハザード』(2002年、アメリカ)が代表作に挙げられるが、とにかく奴らは何処からともなく現れて不特定に人々を襲い、最終的には主人公によって倒されるというのがセオリーだろう。
しかし、今回僕がご紹介する本作『カメラを止めるな!』は、これまでのゾンビ映画とはまったく違った毛色を持つ作品である。おそるおそる観ていたら笑いが込み上げ、迫力があると思っていたら妙な納得感を覚え、怖いと思っていたら何故か感動した。これまでのゾンビ作品とは一味も二味も違いがある作品なので、ぜひここで紹介したい。
ストーリーは、とある山奥の廃墟。自主映画の撮影隊がゾンビ映画を撮影しているところからはじまる。こだわりが強いあまり監督がなかなかOKを出さないでいると、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかってくる。すると大喜びで監督は撮影を始めるが、撮影隊は次々とゾンビと化していく......という撮影をしている人たちの話。少しややこしい(笑)。
見どころは大きく三つ。一つはタイトルにもなっている「カメラを止めるな」ということ。今回のゾンビ映画は「ワンカット」で撮影が行われているのだ。廃墟とはいえ、建物内を行ったり来たりしてさまざまな場面が映し出されるが、ワンカットですべて撮影が行われていると考えると、違った意味でヒヤヒヤしながら作品が楽しめる。しかし、"ゾンビ感"はかなりリアリティでやはり怖いは怖いので、作品を観ている間はそこに注目することができないかもしれない。
二つ目は、二度の「始まり」。ゾンビ映画自体は37分で完結するのだが、実はそれが終わるともう一つのストーリーが始まり、ゾンビ映画とはまったく別の展開が待ち構えているのだ。映画をすべて観終わったとき、その2つのストーリーがきちんと一つの結末をたどっていくことが分かり、最初に覚えた恐怖心とはまったく正反対の感情を抱くはず。特に、ゾンビを見てテンションを上げていた、もはや狂気さえ感じた「監督」の素顔がそこで明らかになるのでぜひ注目してもらいたい。
三つ目は「トラブル」。実は作中ではさまざまなトラブルが起こっており、それがそのまま作品となっているのだ。しかし、僕は本作を最初に観たとき、正直トラブルにはまったく気が付かなかった。だがこのトラブルが感動をもたらす引き金となっており、敢えてトラブルが散りばめられると思うと、よく考えられているなと感心してしまうほど良い作品に仕上がっているのだ。
ここまで作品の楽しみ方というのを僕なりに述べてきたが、最終的な感想を言うと、僕は感動した。完全なる感動作。ソンビ映画なのに。ホラー好きの僕としては「怖い映画を観る」という心構えでいたので、虚を突かれた気持ちになったが、同時に感動もしたので一度で二度美味しく、とても特をした気分になった。
スタッフとキャストにも注目したい。監督の上田慎一郎氏はこれまで短編作品を多く手がけてきたので、今回が初の長編作となるといういわゆる新人監督だ。一方の出演者は全員オーディションで選ばれた無名の役者たち。つまり新人監督と無名俳優陣による作品というわけだが、この距離感、この手作り感がまたいい味を出している作品でもある。
ただのゾンビ映画ではない本作『カメラを止めるな!』。ホラー好きはもちろん、最近感動してないという人はぜひ劇場に足を運んでいただきたい。ゾンビ映画だけに、懐かしい感情がどこからともなく蘇るかもしれない。
(文/小山田滝音)
***
『カメラを止めるな!』
6/23(土)より新宿K's cinema、池袋シネマ・ロサにて公開!
監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、浅森咲希奈、吉田美紀、合田純奈、秋山ゆずき
配給:ENBUゼミナール・シネマプロジェクト
2017/日本/96分
公式サイト:http://kametome.net/index.html
© ENBUゼミナール