もやもやレビュー

一生で一番美しい年齢の映画『櫻の園』

櫻の園
『櫻の園』
中原俊,じんのひろあき,中島ひろ子,つみきみほ,白島靖代,宮澤美保,梶原阿貴
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ポール・ニザン「アデン・アラビア」の冒頭の一節。
「僕は20歳だった。それが人の一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。」

有名な惹句だが、この映画を観ると、舞台は高校で主人公たちは10代ではあるものの、一生で一番美しい季節は、やはり青春時代なのだと打ちのめされる。

『櫻の園』は、創立記念日に毎年チェーホフの「櫻の園」を上演する女子校演劇部の一幕を描いた映画だ。上演直前に、ヤーシャ役の女の子がタバコを吸っているところを見つかってしまい、上演が危ぶまれる。結果どうなるのかは実際に映画を観てほしい。

そんなストーリーよりも、この映画全体に包まれる青春特有の輝きが何よりも眩しいのだ。まだ世界は狭く、学校が全てのような10代の若者たちが、その目の前の出来事に一生懸命になる純粋な姿は、三島由紀夫が「若者の特権は無知であること」と言ったように、美しい。

しかし、そんな時代はまもなくすぎて僕らは大人になっていく。色んな社会の矛盾を知り、人間関係の理不尽さを知り、どうにもならない現実に立ち尽くし、やがて受け入れる。そんなことを思ったことすら忘れてしまう。

革命は老人には起こせない。いつも革命は若者によってもたらされた。理由はその純粋性にある。何かを信じる力を失えば、その時点で青春は終了だ。

中年になった今、何かを信じる力をまだ持っているか、と問われれば、かなり疑わしい。何かを知ってしまうということは、ある意味でとても残酷なことなのだ。

しかし、美しさと残酷さは表裏一体で、もしかすると、そこに中年以降に青春を続けるヒントがあるのかもしれない。

(文/神田桂一)

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