もやもやレビュー

人生最後の恋愛を美しく舞う『蝶の眠り』

『蝶の眠り』 角川シネマ新宿ほか全国公開中!

一人の女性小説家涼子(中山美穂)は遺伝性アルツハイマー病に侵されていた。
少しずつ進行していく症状に自分自身をコントロール出来なくなっていく不安や恐怖と闘いながら生活する日々。そんな彼女の心の支えは一匹の犬であった。
しかし彼女の生活を青年チャネ(キム・ジェウク)との出会いが一変させる。

プライドも高くバリバリと仕事をしていたであろう過去とどこかけだるそうな雰囲気をまとった大人の女性を、絶妙なフェロモンを醸しながら中山美穂が演じている。

相手役のキム・ジュウクはとても日本語が堪能で違和感を感じることもなく鑑賞出来た。
二人の自然な日常のやりとりのなかからラストシーンに繋がるヒントが隠されていて、無駄なシーンが1秒もなかったと最後には思えるだろう。

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キム・ジュウク


「年の差を超えた究極の愛」がテーマの本作。
50代女性と20代男性の恋愛。実際は年の差を感じることも多いのではないか?と想像するのだが、映画のなかでの二人の共通の話題は「小説」。
太宰治や森鴎外、松本清張など幅広い小説家の作品が劇中に登場する。
涼子の本棚を整理するシーンはとても印象的で、どこにどの本が置いてあるのかわからなくなったとしても、手に取った本との出会いを偶然ではなく必然と思いたいという気持ちが伝わってきた。また、私たちが本屋でたくさんの本のなかから吟味して一冊を選択し購入することにも、なにかその作品と自分をつなげる縁のようなものがあるのかもしれないと感じさせられた。
テーマとなった「愛」とは男女の恋愛だけではなく家族愛だったり様々な形があり、愛する人に自分の最期を看取ってもらいたいのか?高齢化社会に生きるすべての人になげかけることの出来るテーマにもなっている。

遺伝性アルツハイマーという病気とともに、完治は難しくこれから悪くなるとわかって生きていく時に「忘れたくない記憶」をどのように残していくのか。
そして、大切な人やものを忘れてしまったとしても「忘れられない感情」があると信じたい。
ただのきれいごとだけではなく、現実的にアルツハイマーという病気に、もしも自分がなったら?家族がなったら?と静かに向き合い考え、有意義な時間を過ごせる作品だった。

(文/杉本結)

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『蝶の眠り』
角川シネマ新宿ほか全国公開中!

監督・原案・脚本:チョン・ジェウン
出演:中山美穂、キム・ジェウク、石橋杏奈、勝村政信、菅田俊 ほか
2017/日本・韓国合作/112分

公式サイト:http://chono-nemuri.com
©2017 SIGLO, KING RECORDS, ZOA FILMS

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