『あしながおじさん』に『風と共に去りぬ』......あの名作の新たな一面が見えてくる!
- 『ギンガムチェックと塩漬けライム: 翻訳家が読み解く海外文学の名作』
- 鴻巣 友季子
- NHK出版
- 1,980円(税込)
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子どものころに外国文学の翻訳作品を読んでいると出会った不思議な言葉たち。「しゅす」や「びろうど」はどんな生地かはわからないけれど、その響きに胸がときめいたし、物語の少女たちが夢中になっていた「塩漬けライム」は一度でいいから食べてみたいと憧れた......なんて皆さんは多いのではないでしょうか。
「こういうなんだかわからないけど素敵そうなあのアイテム、美味しいのか不味いのかわからないのに魅力的な謎の食べ物へのあこがれとふしぎ」(同書より)を込めて名付けられたのが、今回紹介する書籍『ギンガムチェックと塩漬けライム』。翻訳家・文芸評論家の鴻巣友季子さんが、誰もが知る海外の名著を新たな切り口で紹介した一冊です。
先ほど例にも出した「塩漬けライム」は、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』やジーン・ウェブスターの『あしながおじさん』の翻訳小説で目にした人もいることでしょう。私もそのひとりで、それが「ライムのピクルス(pickled limes)」であることは知っていましたが、同書を読んでなるほどと感じたのが「女の子たちはこれをやりとりすることで交友する」(同書より)ということ。「昭和の日本で言うところのメンコやシールのような社交通貨だった」(同書より)と聞くと、一気にその感覚が理解できますね。こうした情報を知るだけで、作品の世界がより深まりはしないでしょうか。
同書ではこのように、古今の名作についての新たな解釈や情報がいくつも提示されます。たとえば、『風と共に去りぬ』は映画版のイメージから壮大なロマンスストーリーだと認識している人も多いかもしれません。しかし原作を読むと、スカーレットは幾多の困難を乗り越え、仕事人として、大家族の養い主として立派に成長するものの、恋愛には終盤まで目覚めることがなく、その愛にはあまりリアリティが感じられません。鴻巣さんは、この作品はロマンス小説という枠組みに押し込めず、「土地をめぐる世知辛い『不動産小説』であり、世界がひっくり返る『敗戦小説』であり、先述したように、女性同士の複雑な友情関係を描く『シスターフッド小説』」(同書より)として読んだほうが何倍も楽しめると記します。
他にも『高慢と偏見』『ジェイン・エア』『嵐が丘』といった古典作品から『ライ麦畑でつかまえて』や『老人と海』など比較的新しい作品、さらには、近年アメリカでドラマ化もされた『侍女の物語』やカズオ・イシグロの『クララとお日さま』のような現代作品まで幅広く取り上げられている同書。海外文学に親しむガイドブックとして、皆さんを新たな世界へと導いてくれること請け合いです。
[文・鷺ノ宮やよい]