「Super Rich Kids」の修復できない心のズレ。『ブリングリング』
映画『ブリングリング』 渋谷シネクイントほか全国公開中
名前も読めねぇ高級ワインが山ほど/マリファナが入ったボウルがそこら中に/幸福のお守りはなし/メイドはウザいぐらい/でも親は家にいやしない
親父のジャガーを遊びで乗り回して/毎日白々しい嘘と白々しいコカインのラインまみれ/超金持ちのガキはユルい死しかない/超金持ちのガキにはニセモノの友達しかいない
リアルラヴ/俺はそれを探してんだ/リアルラヴ/俺はそれを探してんだ/リアルラヴ
これはジャズ・ミュージシャンの菊地成孔さんがラジオ番組『菊地成孔の粋な夜電波』(毎週日曜午後7時、TBSラジオ系列)の11月10日放送回で和訳してみせた、R&BシンガーFrank Oceanの曲『Super Rich Kids』の一部です。
経済的エリートの親を持つ子どものあまりにも退廃的な心情を描いたこの曲は、ソフィア・コッポラ監督最新作『ブリングリング』のエンディングに使われています。
パリス・ヒルトンをはじめ名だたるセレブたちの自宅に侵入し、ブランド物の服や靴、バッグ、現金など3億円以上にもなる金品を盗んだ窃盗団。そのメンバーは地元のティーンエイジャーたちだった......この作品はそんなセンセーショナルな実話に基づいています。
あっさりと泥棒に成功してしまった彼らは、その行為を止められなくなり、やがて逮捕に追い込まれます。しかしメディアの注目を集め、さらには収監されても彼らは大して反省したり落ち込んでいるようには見えません。
彼らはドレスや現金が本当に欲しかった訳ではなく、満たされない空虚さを紛らわすため、たまたまやった行為が窃盗だったに過ぎません。その表面的な行為をいくら糾弾されても、彼らの心の奥底には何も触れないのです。
窃盗団の一人、ニッキー(エマ・ワトソン)はなかでも強者。彼女の母親は「引き寄せの法則」を信奉し、「この星を歩くすべての人のために生きる」ことが人生の目的です。その発言は崇高な精神に溢れていますが、娘の心がグチャグチャになっていることにはまったく目を向けていません。
ニッキーは当然母親にイラついていますが、事件後に露呈するズレた感覚は母親にそっくり。母親の、実態を伴わない強引な自己肯定を彼女もまたしっかりと受け継いでいるのです。
窃盗グループのメンバーは皆それぞれに魅力的ですが、その語り口はごく淡々としているからこそ、エンドロールで流れる『Super Rich Kids』の直截的な歌詞が胸に迫ります。この曲は、加害者の子どもたちだけでなく、被害者であり病的な買い物を止められないセレブたちにとっても真実なのかもしれません。
(文/小野好美)
『ブリングリング』
渋谷シネクイントほか全国公開中
原題:The Bling Ring
監督:ソフィア・コッポラ
出演:エマ・ワトソン、ケイティ・チャン、クレア・ジュリアン ほか
配給:アークエンタテインメント、東北新社
2013/アメリカ、フランス、イギリス、日本、ドイツ合作/英語/90分
公式サイト:http://blingring.jp/
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