もやもやレビュー

思わず部屋で踊りだして、足の小指を強打した『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続ける命』

Pina / ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち コレクターズ・エディション [DVD]
『Pina / ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち コレクターズ・エディション [DVD]』
ピナ・バウシュ,ヴッパタール舞踊団のダンサーたち,ヴィム・ヴェンダース
ポニーキャニオン
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 痛かったです。だけど痛み以上に湧き上がったのは、突発的な「踊りたい!」という抑えきれない興奮でした。

 2009年に亡くなった世界的な振付師ピナ・バウシュ。長年親交の深かったヴィム・ベンダース監督が、彼女の作りだす踊りの世界を映像化しようと考えたのは20年以上も前のこと。ですが、当時はその世界観を再現しきる方法がなかったために製作は頓挫。その後、3D技術の向上が作品を生み出す契機となり、奥行きある映像の中にピナの踊りの世界が鮮やかに映し出されることとなりました。この圧倒的な映像を見せられてしまったら、そりゃ小指くらいぶつけます。とても痛かったです。

 ピナが撮影間際にこの世を去ったため、本作では彼女が生前に率いてきたヴッパタール舞踏団による演目が披露されています。舞台の上に留まらず、車が行きかう街中で、木々が茂る森の中で踊り狂うダンサーたち。重力に身を任せるような不安的な動きを見せたかと思えば、感情を爆発させたような、人の動きの臨界点に挑むような激しい舞踏。その衝撃的な表現の美しさと圧倒的な破壊力は、2Dであっても十分に視覚と精神を揺さぶってくれるものであり、極限まで研磨されたかのような彼らの動きは、もはやダンスという一つの単語では括りきれない次元にあるように感じました。

 思わず体を動かされてしまうほどの映像体験は、今までには経験したことがない種類のもので、あまりにも新鮮。映画というより、ひとつの世界観に取り込まれるアトラクションのような作品ではないかと思います。

(文/伊藤匠)

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