もやもやレビュー

「最初の観客が少ないこと」がスターになる条件かもしれない『フランス映画史の誘惑』

フランス映画史の誘惑 (集英社新書)
『フランス映画史の誘惑 (集英社新書)』
中条 省平
集英社
946円(税込)
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 Twitterでこんなつぶやきが流れてきたことがありました。

[爆弾を解体中に残った赤と青の配線。犯人は「赤を切れ」と言う。犯人は主人公の親友でもある]

 この後の展開を元に、国別に映画のカラーを見てみようというものです。

 読んでみると、[信じて赤を切って爆弾が止まる→アメリカ映画]というハッピーエンドな展開と反対にあるのが[信じず青を切ってみんな死ぬ]というフランス映画。そんな映画観たい人がいるのか。

 ともあれ、そんな形でフランス映画に興味が湧き本書を読んでみました。
 映画が最初に生まれた場所がハリウッドでもインドでもなく、フランスであることは有名なこと(らしい)ですが、その後、第一次世界大戦やアメリカ映画との抜きつ抜かれつの関係等、紆余曲折のイバラ道を歩んで来たことはあまり知られていないのではないでしょうか。

 1895年12月28日、パリのグラン・カフェの地下室で、世界で初めての映画上映が行われました。当時は「シネマトグラフ」と呼ばれたこの見世物を創始したのが、ルイとオーギュストのリュミエール兄弟。この2人が今も続く「みんなで集まって巨大なスクリーンに映した映像を見る」というスタイルの原型を作り出したわけです。

 ただ、この世界初の上映会の立ち会った人数はたったの33人。誕生の瞬間を見た人が小学校のクラス人数程度しかいなかったものが、今では第一級のエンタメ産業となっているこの経過、どこかで聞いた事がありませんか?
 そう、AKB48の誕生とアイドルグループの頂点に立つまでの過程とそっくりなんです!

 2005年12月8日、秋葉原の劇場で行われた初公演に集まった観客は、わずか7人だったそうです。そこから約8年後の現在は、CDは初週でミリオンが当たり前。毎年行われる総選挙はゴールデンに生中継され、日本中が一喜一憂するほどのアイドルグループへと成長を遂げています。

「フランス映画史」という大仰なタイトルですが、綴られている内容はアイドルの成長物語を見るような波乱とイベントに満ちたものばかり。フランスを舞台に「映画」という主人公が傷つきながら成長を遂げて行く大河ドラマを見るような気分で楽しむ事が出来るはずです!

「トリフォーとかゴダールってなに、チーズの種類?」みたいなフランス映画ビギナー(読む前の自分のような人)にこそ、お勧めしたい一冊です。

(文/伊藤匠)

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