パワハラ上司に贈るべき!『大きな魚をつかまえよう』
- 『大きな魚をつかまえよう―リンチ流アート・ライフ∞瞑想レッスン』
- デイヴィッド リンチ,Lynch,David,虹恵, 草坂
- 四月社
- 1,980円(税込)
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人の行動を真似ることはできても、人の思考を真似ることはできない。だから人の脳内というのは、とても気になります。例えばデイヴィッド・リンチの脳内は、もちろん映画を観ることで覗き見ることができますが、この本には映画というアウトプットに辿り着くまでのことも書かれています。
『大きな魚をつかまえよう』。デイヴィッド・リンチがどのようにアイデアをつかんでいるのか、つまりアイデアの発想法を自ら語っています。サブタイトルが「リンチ流アート・ライフ∞瞑想レッスン」となっている通り、リンチの発想法は1日2回の瞑想(TM=超越瞑想と呼ばれるもの)。『エレファント・マン』の時に始めたようです。そう考えると、瞑想という発想法を取り入れる以前に作られた、ただ一つの作品『イレイザーヘッド』がとても貴重に思えてきます。
『ツイン・ピークス』の赤い部屋。『ブルーベルベッド』の野原に捨てられた耳。それらも瞑想でつかまえたアイデア。
瞑想と聞くと、どうも怪しげなイメージが先に立ってしまいます。なおかつこの本にはTMのステマ本的側面もあります。実際わたくし、本を読んだあとにTMの説明会に行ってしまいましたし。しかしリンチのステマなら仕方ありません。
ただ、ここに書かれているのは瞑想のことだけではありません。リンチの映画作りの内幕、実は一度だけ精神科に行った話、『イレイザーヘッド』を新聞配達でお金を稼ぎながら完成させた話。そのエッセーからは、名字や作品から連想される暴力性とは正反対の、真っ当で真摯な素顔が垣間見られます。本を読んでから見直した『マルホランド・ドライブ』。以前に観た時の恐ろしいイメージとは違い、うっすらと温かみを覚えるようになりました。
また我々の仕事のやり方においても気づきがあります。例えば俳優を怒鳴りつけたり、恐怖心を植え付けることによって仕事を進めようとする連中は、哀れで愚劣だとリンチは言っています。そういうふうに現場を恐怖で仕切っていたら、手に入れられる結果は100%ではなく、1%の結果でしかないだろうと。仕事でも人生でも楽しんで然るべき。「洋服の裾にじゃれつく子犬のように、大いに楽しむがいい」と。
いい本です。
(文/根本美保子)