悠々自適な老後はもう幻想? 働き続ける「過労シニア」の切実な実態

ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか(朝日新書)
『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか(朝日新書)』
若月 澪子
朝日新聞出版
957円(税込)
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 老後は子どもや孫に囲まれて、のんびりと趣味などに時間を費やす悠々自適な生活を送りたい――。

 このような願いは、現代ではもはや"高望み"となっている。『ルポ 過労シニア「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新書)によると、今の日本では60~64歳で8割、65~69歳は6割、70歳以上でも半数以上の人が働いているという。

 働く理由はさまざまだが、多くが好きで働いているのではなく、「経済的理由」「社会からの孤立を防ぐため」といった切実な"働かなければならないワケ"があるようだ。たとえば、経済的理由の1つには「終わらない子育て」が挙げられる。

「若者の実質賃金が下がり、一人暮らしをしたり、家庭を持ったりすることが一層困難になっているからだ。一度就職した子どもが離職したまま、再就職をしないケースも増えている。そして自立を促そうとする下の世代の親たちの、子どもへの『教育費の課金ゲーム』は激化する一方だ」(本書より)

 本書の中に出てくるAさんは67歳。30歳になる長男のために、今も教育ローンの返済を続けている。長男が小学生の頃からの習い事に、私立中学の学費など......。2000万円ほどにも及ぶ教育費を背負い、Aさんは今も働き続けているのだ。

 一方で東証プライムのメーカーで40年間勤め上げ、借金もなく年金もある程度受給しているが、それでも将来への不安を抱え働いているシニアもいる。65歳で会社との雇用契約が切れてからマンションの管理人として働いているGさんは、年金と合わせて月30万円の収入があり厳しい生活ではない。しかしメーカーで働いていた頃から生活レベルを落とすことは難しく、毎月ギリギリだという。

「『マンション管理人』は退職後のサラリーマンにとって『ちょうどいい仕事』と言われている。『適度な人との関わり』『適度な健康維持』『適度な収入』があるからだ。(中略)しかし報酬額は最低賃金レベルだ」(本書より)

 しっかりと勤め上げ、退職金ももらったシニアがその後も最低賃金で働かなくてはならないほど将来に不安を抱える状況。こんな日本社会に疑問を抱くのは私だけではないはずだ。

 AさんにしろGさんにしろ、定年退職後の職は「非正規雇用」である。Gさんのようにマンションの管理人などの雇用があればまだよいが、シニアになってからの職探しはほとんどが工場や介護、清掃といった肉体労働だ。そんな中、老後は「NISA・タイミー・年金」の3本柱で暮らす予定を立てているシニアもいる。

 現在63歳のRさんは、もともと勤めていた紳士服の卸売会社で嘱託として勤務。65歳までは今の会社で働き、その後は先ほどの「3本柱」で暮らすという。じつは現在もスポットワークで月に何回か居酒屋での副業をしているRさん。同時にNISAも始め、今は年金を繰り上げ受給し、その分をNISAに回そうかと考えているらしい。

 実際、30歳くらいまでフリーターだったというRさんは年金をもらったとしても月10万円弱だ。それならスポットワークをしつつ、NISAで配当を増やすというのも生存戦略の1つかもしれない。

 将来を見据えて戦略を立てているRさんだが、目下の問題はお金ではないところにある。独身な上に会社以外では人とのつながりがないため、退職すればそれこそ社会から孤立してしまうのだ。とはいえ、中高年向けの集まりは「年寄り臭いのは興味が湧かない」と一蹴する。

「自分は老人ではない、年寄り扱いされたくない。今のシニアが抱えがちな悩みだ。しかし、シニアが若い人の輪に突然入ることは難しい。友達という『資産』も現役時代からコツコツと積み上げていかなければ、手元には何も残らない」(本書より)

 年金はあてにできず、投資などで老後の安心を得たとしても、「孤独」から逃れるためには若い頃からの積み上げが大事......。なかなかにシビアな現実だが、本書で紹介されているシニアたちよりもさらに厳しいシニア時代が、今の40~50代には待ち受けているかもしれないと著者は語る。

 生成AIの発展や外国人労働者との競争が激化している上に、不安定な雇用や低年金の未来に怯えている現状で、一体どれだけの人が「悠々自適な老後ライフ」を送れるのだろうか。今現在安定した企業に勤めていたとしても、親の介護で離職せざるを得なくなり、経済的に苦しくなるかもしれない。一度離職したが最後、労働市場に戻れなくなり「ミッシング・ワーカー」となる可能性もあるのだ。

 誰しも生きていればシニア世代になる。そのときに備えて、今何ができるのか。本書は自分の老後を真剣に考え直すきっかけとなる1冊である。

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