壊れていく日常。『愛に乱暴』

- 『愛に乱暴』
- 森ガキ侑大,森ガキ侑大,山﨑佐保子,鈴木史子,江口のりこ,小泉孝太郎,風吹ジュン,馬場ふみか,水間ロン,青木柚,斉藤陽一郎

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第二回モントリオール日本映画祭にて女優最優秀賞と最優秀脚本賞を受賞した本作。原作は「悪人」「怒り」の吉田修一、監督はCMクリエイターとして活躍し『おじいちゃん、死んじゃったって。』『さんかく窓の外側は夜』の森ガキ侑大。
主人公の背後からまとわりつくようなカメラワークが特徴の本作。緊迫感に包まれたヒューマンサスペンスとなっています。2024年公開。
夫の実家の敷地内に建つ"はなれ"で暮らす桃子(江口のりこ)は、結婚して8年になります。義母(風吹ジュン)から受ける微量のストレスや夫・真守(小泉孝太郎)の無関心を振り払うように、センスのある装い、手の込んだ献立などいわゆる「丁寧な暮らし」に勤しみ、毎日を充実させていました。
そんな桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始めます。近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、愛猫の失踪、不気味な不倫アカウント...。平穏だったはずの日常が少しずつ乱れ始めて、桃子は追い詰められていきます。
追い詰められて崩壊していく桃子。それでも自身は全く変わっていないと感じている桃子の狂気。
チェーンソーを購入し、笑いながら床板に刃を入れていく。その爆音を不審に思った義母がのぞきに来ると、とっさに床下に隠れるというシーンがあります。床下で土まみれになりながら笑い、そのまま土の上で朝を迎える。完全に狂っているのに、狂っている自覚がまったくないのです。また、夢中で探していた飼い猫の「ぴーちゃん」を、本当は飼ってもいないし、ぴーちゃん自体が実在してもいなかったこと。実家で義母や夫の様子を母に聞かれて、「何も変わりない」と言う無理のある笑顔。いや、なんなの桃子。
丁寧な暮らし、平凡な日常。そのなかに無関心や、生きてる実感の欠落が積み重なるだけで、こんなにも人は崩れてしまうのかという恐怖。独特のカメラワークで映し出される桃子が崩壊していく姿が、異様にリアルで恐ろしい。
そんな桃子をほどくのは、たったひとつの言葉でした。
人を壊してしまうもの、人をほどくもの。そのひとつの正体を、教えてくれる映画です。
(文/森山梓)

