情熱と執念で凶悪事件を解決へと導く一般人たち。驚くべき「サイバー探偵」の世界とは?
- 『未解決殺人クラブ~市民探偵たちの執念と正義の実録集』
- ニコラ・ストウ,村井理子
- 大和書房
- 2,640円(税込)
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皆さんは「市民探偵」という存在をご存じでしょうか。市民探偵とは、仕事の合間や余暇に膨大な時間を使って未解決事件や行方不明者の手がかりをインターネット上で検索し続ける一般市民のこと。日本ではあまり身近にはいないかと思いますが、アメリカにはこうした人々が数多くいるといいます。今回紹介する『未解決殺人クラブ~市民探偵たちの執念と正義の実録集』は、実際に起きた事件の数々とそれに携わった市民探偵たちの活動について記した実録集。ジャーナリストのニコラ・ストウ氏の取材によって、彼らがどれほどの熱意や執念を持って事件解決に向けた取り組みをおこなっているのかが明らかにされています。
たとえばサイバー探偵のパイオニアとして知られるトッド・マシューズ氏は、亡くなった身元不明者の名前を取り戻すことに人生を賭けてきた人物です。そのきっかけとなったのは、彼が高校生だった1987年、のちに妻となるガールフレンドの父親から話を聞いた「テント・ガール」事件でした。
「若い女性が行方不明になり、殺害され、家族がそれを届け出ないなんてことが、どうして起きるのだろう?」「君を家に連れ帰る。君の名前を必ず見つけるからね」(同書より)との思いに駆られたトッド氏は、テント・ガールの身元探しにのめり込んでいきます。警察署や新聞社、住民などへの聞き込みのほか、途中からはコンピュータを購入し、それまでの膨大な情報を網羅したテント・ガールのウェブサイトを作るまでに至ります。
そうして10年以上の年月をかけ、トッド氏は警察も見つけられなかったテント・ガールの身元を割り出したのです。このことでトッド氏は一躍時の人となり、「世界初のインターネット探偵」と呼ばれることになりました。今でも彼は身元不明者を特定して被害者家族に伝えることに自由時間のほとんどを費やしているといいます。
同書にはほかにも、以下のような驚くべき市民探偵たちが登場します。
・高校生のころに連続殺人鬼テッド・バンディに声をかけられたものの逃げ延びた経験から、未解決事件への情熱を燃やし、インターネット探偵専門サイト「ウェブスルース・ドットコム」のオーナーになった主婦
・「黄金州の殺人鬼」に関する資料を保安官事務所から持ち出して丹念な調査を続けた、データ分析のプロとノンフィクション作家のペア
・娘を殺したギャングを捕まえるべく、SNSの偽アカウントで釣って犯人を突き止めた母親
・猫を虐待する動画を投稿した犯人を、その動画の背景にあるわずかな情報から割り出そうとするアナリスト(この事件はNetflixでドキュメンタリー作品化されている)
警察がこうした市民探偵を歓迎しているかといえば、必ずしもそうではなく、市民探偵の過剰な情熱により人違いで無実の人を追い詰めてしまう出来事も起きているため、良い面ばかりを強調することはできません。しかし、市民探偵たちが提供した情報から犯人逮捕につながったり、彼らの働きで再び未解決事件に光が当てられたりしていることも事実です。日本ではあまり聞き馴染みのない「市民探偵」の世界。興味を持った方は同書を手に取ってみてはいかがでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]