なぜヒトは「裸のサル」になった? 人体最大の臓器「皮膚」の謎に迫る

人体最強の臓器 皮膚のふしぎ 最新科学でわかった万能性 (ブルーバックス)
『人体最強の臓器 皮膚のふしぎ 最新科学でわかった万能性 (ブルーバックス)』
椛島 健治
講談社
1,320円(税込)
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人体には脳や心臓など、生命維持に欠かせない重要な臓器がいくつもある。それは誰もが知るところだが、実は「皮膚」もそんな臓器の1つであると知る人は少ないだろう。

今回紹介する『人体最強の臓器 皮膚のふしぎ 最新科学でわかった万能性』(講談社)は、多くの能力を併せ持った「スーパー臓器」である皮膚の謎に、科学的知見をもとに迫った1冊。著者は、京都大学医学研究科・皮膚科教授の椛島健治氏だ。

著者によると、皮膚はウイルス・細菌・紫外線などから人体を守る「生体防御の要」であり、さまざまなセンサーが埋め込まれた「感覚器官」でもあるという。皮膚センサーが主に検出する感覚は「表在感覚」または「皮膚感覚」と呼ばれるものだ。具体的には、触覚・圧覚・痛覚・温覚・冷覚などが挙げられる。

「私たちは表在感覚によって、わが身に迫った危機を回避したり、手に触れたものがどのようなものかを識別しています。
たとえば、熱いものに手を触れるととっさに手をひっこめるのは、熱さや痛みなどの情報が脊髄に送られることで、反射機構が働き、危険回避のために、脊髄から筋肉へ指令が出るからです」(本書より)

興味深いのは、ひとくちに皮膚といってもセンサーの分布には大きな偏りがあるため、刺激を敏感に感じる部位と鈍感な部位がある点だ。カナダの脳外科医ペンフィールドは、人体を使ったある実験をおこない、センサーの分布について詳しく調査。実験結果をもとにヒトのからだの敏感な部分を大きく、鈍感な部分を小さく描いた図を作成した。これを、「ペンフィールドのホムンクルス(小人)」という。

「ホムンクルスは、実際のヒトのからだにくらべて、アンバランスに手と唇が大きく、舌がやたらに大きい姿をしています。(中略)実際、私たちは手指や舌にできた小さな傷に敏感ですが、臀部や大腿部については意外と鈍感です」(本書より)

ヒトの皮膚は、ほかの哺乳類と比較するとかなり特殊だ。ヒトは体温調節のために汗を分泌する「エクリン汗腺」が発達しており、ほぼ全身で汗をかける。

チンパンジーやゴリラなどの類人猿の体表は、体毛でぎっしり覆われている。しかしヒトの体毛は非常に薄く、類人猿たちと比べると無毛に見えるほどだ。その一方で、ヒトには頭髪や眉毛など、部分的に長い毛が生えている。この特徴は、そのほかの類人猿には見られない。

では、なぜヒトは「裸のサル」になったのだろうか。体毛は紫外線や温度の変化、物理的な衝撃からも身を守ってくれる便利なもの。だからこそ、類人猿だけでなく地球上に存在する多くの哺乳類が毛を備えている。生物が生存に有利な遺伝的形質を受け継ぎながら進化してきたことを考えると、ヒトが「裸」になるのは妙だ。進化論を提唱したダーウィンをはじめとして、多くの進化学者がこの謎に挑んできたが、いまだ定説が確立されるにはいたっていない。

「現時点で最も有力とされるのが、樹上生活をしていたヒトの祖先が、生活範囲をサバンナ(草原)に広げたことがきっかけで急速に無毛化が進んだとする『サバンナ説』です」(本書より)

アフリカ大陸のサバンナには厳しい直射日光を遮る樹木が少なく、高温で乾燥している。そのような環境に適応するには、体温が過度に上昇しないよう、効率的に熱を逃がす必要があった。先述のとおり、ヒトは全身に汗を分泌する「エクリン汗腺」を持っており、汗を放出することで体温を下げている。汗による効率的な熱放出を考えたとき、長い体毛が少ないほうが、汗が皮膚表面から蒸発しやすいというわけだ。

また、皮膚が露出していると「皮膚の病気」に気づきやすいというメリットもある。アトピー性皮膚炎、じんましん、熱傷、水虫、脱毛症など、どれもすぐに異常に気づけるものばかりだ。

ちなみに、2007年から2008年の1年間に全国の皮膚科施設を受診した患者のアンケート調査によると、第1位は「その他の湿疹」だった。「湿疹」とは皮膚の表面に起きる炎症の総称で、多くの場合、赤いブツブツとかゆみが出る。とりあえず原因はわからなくても、皮膚に炎症のある疾患は「湿疹」と診断されるのだ。

「湿疹には、それぞれ原因(たとえば漆に対する接触皮膚炎など)があるわけですから、『湿疹』と診断するのは原因がわからなかったことを意味します」(本書より)

ある意味「湿疹」が起きることで、異物や病原体を遮断するバリア機能がなんらかの理由で低下したことがわかるとも言える。皮膚というと美容ばかりが注目されがちだが、人体を守る「生体防御の要」ということを忘れてはならない。

日々目にする最も身近な臓器である皮膚。本書を通じて、知られざる皮膚の力を学んでみてはいかがだろうか。

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