片足の少年が魅せる圧倒的な強さと命の輝き『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』
『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』 8月7日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
今回紹介する映画、実は短編が幻の名作。サヒム・オマール・カリファ監督による19分間の短編映画『バグダッド・メッシ』は、2015年にアカデミー賞短編実写部門の最終候補に選出され、世界中で高い評価を得ました。SAMANSAというショートフィルム専門チャンネルで発見した当時はかなり衝撃を受けたそんな作品でした。それから約9年の歳月を経て、物語のスケールを大きく広げて長編映画へと発展させたのが本作です。
以前、この短編映画を鑑賞していた筆者にとって、まさかこのような長編として再び彼らの物語に出会える日が来るとは夢にも思っておらず、スクリーンで鑑賞できたことは純粋に大きな喜びでした。しかし同時に、映し出される内容は、観ていて終始胸が苦しくなるほどの凄惨な「戦争の現実」でした。
2009年、イラク戦争下のバグダッド。メッシに憧れる11歳の少年ハムディは、仲間たちと泥だらけのサッカーボールを日々追いかけていました。しかし、ある日一瞬の爆撃に巻き込まれ、目覚めたときには片足を失っていました。 夢も自由も奪われ、さらにアメリカの警備会社で通訳をする父を憎む者によって家を焼かれてしまった一家は、辺境の村へと逃れます。
片足を理由に地元のサッカーチームから拒絶され、何もかもが変わってしまった世界で居場所を見失うハムディ。そんな閉ざされた少年の心を動かしたのは、両親の深い愛でした。もう一度夢を見るために、一本の足で立ち上がろうとするハムディ。しかし、戦争という無慈悲な現実は、なおも容赦なく彼らに襲いかかります――。
本作を観て改めて痛感させられたのは、戦争は大人か子供かなど関係なく、容赦なく命を奪いにくるという事実です。平和な日本に暮らす私たちには、戦争が日常のすぐ隣にある国の生活など想像すら及ばない――そんな現実を突きつけられたようでした。
サッカーが大好きだった少年が片足を失い、それでもなおボールを蹴り続けようとする姿には胸が締め付けられます。と同時に、彼の中には「諦める」という選択肢が最初からないのだという、圧倒的な強さを感じずにはいられませんでした。もし自分がこの子の親だったら、これ以上の危険を避けるためにサッカーから距離を置かせてしまうかもしれません。だからこそ、残酷な世界の中でも子供自身に選択させ、寄り添い見守る両親の強さにも激しく心を揺さぶられました。
中でも最も心がざわついたのは、地雷原だと分かっていながら、そこに武器を取りに行こうとするシーンです。作中で"ある地図"が渡された瞬間から「嫌な予感」が拭えなくなるのですが、物語は本当に、一番目を背けたくなる方向へと突き進んでいきます。子供の視点を通すことで、戦争の恐ろしさがどれほど日常の細部にまで渦巻いているのかを、嫌というほど思い知らされます。
しかし本作は、決して「戦争が起きている国のかわいそうな子供たち」という悲惨さだけを切り取った作品ではありません。どんなに過酷な環境であっても、彼らは強く、たくましく生きている。憧れのスター選手がいて、試合の観戦を心から楽しみにし、未来への夢や希望を抱いている。一人の少年が持つその尊い輝きを、真っ正面から捉えた力強い作品です。
(文/杉本結)
『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』
8月7日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督:サヒム・オマール・カリファ
出演:アフマド・モハメド・アブドラ、ザフラー ・ガンドゥール、アセール・アデル
配給:Elles Films
2023/イラク、ベルギー、オランダ/84分
公式サイト:https://baghdad-messi.jp
予告編:https://youtu.be/fkdsvHgZJms
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