マイケル・ジャクソン来日秘話 不可能と思われた"奇跡のステージ"を実現させた人々

- 『マイケル・ジャクソン来日秘話 テレビ屋の友情が生んだ20世紀最大規模のショービジネス』
- 白井荘也
- DU BOOKS

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2026年6月12日に日本で公開された映画『Michael/マイケル』が、伝記映画史上初となる世界興行収入10億ドルを突破した。没後15年以上がたった今なお、世界を魅了し続ける"キング・オブ・ポップ"ことマイケル・ジャクソン。彼のソロ初のワールドツアーが1987年、日本から幕を開けたことをご存じだろうか。
白井荘也氏の著書『マイケル・ジャクソン来日秘話 テレビ屋の友情が生んだ20世紀最大規模のショービジネス』(DU BOOKS)は、この歴史的な来日公演が実現するまでの舞台裏や知られざるエピソードを描いた一冊だ。音楽番組の演出畑を歩んできたテレビマンである著者が、稀代のスーパースターを日本へ迎えるまでに奔走した日々と、そこに込められた情熱を鮮明に記している。
1935年生まれの著者は、1959年に日本テレビ芸能局音楽部へ入社。戦後の進駐軍放送から流れるジャズに魅了されたことをきっかけに音楽の世界へ足を踏み入れ、『シャボン玉ホリデー』や『ホイホイ・ミュージック・スクール』など、昭和を代表する音楽番組を手がけてきた。日本のテレビ文化が新たな娯楽として成長していく時代を、最前線で歩んだ人物である。
1966年には、日本テレビが放映権を獲得したザ・ビートルズ初来日公演でフロアマネージャーを担当。放送は視聴率56.5%という驚異的な数字を記録し、テレビが人々に大きな興奮と熱狂をもたらしていた時代の空気が伝わってくる。著者は当時のテレビ業界について、こう述べている。
「当時のテレビは、ほかの人がやっていないことをやろうということばかり考えていた」(本書より)
その後も、日本テレビはエルヴィス・プレスリーのハワイ公演の衛星中継など、世界的スターのステージをお茶の間へ届けてきた。しかしマイケル・ジャクソンの招へいは、数々の大舞台に携わってきた著者にとっても別格の挑戦だったという。
「日本に呼べる外国人アーティストのなかでも最上位にレベルが高く、予想される出演料はとんでもなく高いため、日本への招聘はまず無理だろうというのが大方の予想でもあった」(本書より)
そんな"無理筋"とも思えるプロジェクトを動かしたのは、意外にも長年にわたって築かれた人とのつながりだった。
きっかけとなったのが、アメリカの兄弟音楽グループ「オズモンド・ブラザーズ」の末弟、ジミー・オズモンド。1970年代前半、カルピスのCM出演を機に日本でも人気を集めたジミーを、著者は自身の番組に起用するなど、公私にわたって支えていた。ふたりの信頼関係が、ジャクソン5時代からマイケルと親交のあったジミーによる推薦へと結びついたのだ。
巨額の費用や世界各国からのオファーが絡む一大プロジェクトでありながら、本書が描くのは単なるビジネスの成功物語ではない。浮かび上がってくるのは、人との縁が大きな夢を動かしていく過程だ。
もちろん、招へいまでの道のりは決して平坦ではなかった。国際電話も現在ほど容易ではない時代、著者はロサンゼルスへ何度も足を運び、慎重な交渉を重ねていく。ギャラの上乗せを提示するライバルもいるなか、著者がマイケル側に伝えたのは、日本で公演をおこなう意義だった。
「マイケルに日本に来てもらうことが日本のエンターテインメント界に対してどれだけの大きな影響を与えるか、また日本のファンに対してどのくらい感激を与えるかを語った」(本書より)
本書では、契約成立後の舞台裏にも迫っている。アメリカから150トンにも及ぶ機材の搬入、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドでおこなわれたリハーサルで著者が目の当たりにしたマイケルの圧倒的な存在感、さらには愛猿バブルスくんの来日をめぐるエピソードまで、巨大公演を陰で支えた人々の奮闘が丁寧に記されている。
さらに1987年9月12日、後楽園球場で幕を開けた初日のステージにいたっては、一曲ごとのマイケルの細やかな動きや会場を包んだ熱狂までを"実況中継風"に描写。まるでその場の空気や観客の興奮までを追体験できるような臨場感が、本書の大きな魅力だろう。
そして、本書で最も興味深いのは、"キング・オブ・ポップ"の称号の裏にある、一人の人間としてのマイケルの姿だ。契約書の調印式でジミーと幼い頃の思い出話に花を咲かせていた一面や、ファンへの心遣いなど、ステージ上の圧倒的なスター性とは異なる姿が描かれている。
著者は、マイケルの印象についてこう記している。
「そばにいるだけで、オーラが燦燦と輝き、デカい花が咲いたような雰囲気を持っている人だった」(本書より)
マイケル・ジャクソンという唯一無二のスターを日本に迎えたのは、巨大な資金力でも肩書でもなかった。そこにあったのは、「人は大切にするもの」という著者の信念と、夢を実現させようと奔走したテレビマンたちの情熱だった。本書を通して、マイケル・ジャクソンという人物の奥行きに、あらためて圧倒されるはずだ。
