【無観客! 誰も観ない映画祭 第54回】『血みどろの入江』
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- クロディーヌ・オージェ ルイジ・ピスティッリ イザ・ミランダ,マリオ・バーヴァ
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『血みどろの入江』
1971年 イタリア 84分
監督/マリオ・バーヴァ
脚本/マリオ・バーヴァ、ジョゼフ・マクリー、フィリッポ・オットーニ
出演/クローディーヌ・オージェ、ルイジ・ピスティッリ、クラウディオ・カマソ、イザ・ミランダ、ラウラ・ベッティほか
イタリア公開題『Ecologia del delitto』(犯罪の生態学)
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前回に引き続きマリオ・バーヴァ作品を紹介します。監督のプロフィールは先月のコラムでおさらいして頂くとして、本人もお気に入りの作品を選びました。そして同作は、80年代にレンタルビデオ産業の流れに乗って大ブームを巻き起こしたスプラッター映画、またはスラッシャー映画の元祖として歴史に名を刻んでいるのです。物語は、森に囲まれる美しい入江で連続殺人が起こるサスペンス・スリラー......ではありますが、犯人捜しが霞むほど大迷走します。ラストのドンデン返しまで一気にネタバレで行きます。
入江を一望できる大邸宅。車椅子に乗る女性の首に、黒手袋をはめた何者かがロープの輪を掛けます。そいつが車椅子を乱暴に蹴飛ばすと、天井の梁を通して垂らしていたロープにより首吊りが完成します。その人物は偽造した遺書をテーブルに置き自殺に見せかけますが、直後に第三者によって刺殺されてしまいます。女性は入江一帯の土地所有者ドナティ伯爵夫人で、警察は自殺と発表します。実は夫人殺しは夫なのですが、第三者がその死体を持ち去っていました。とまあ、マリオ・バーヴァお得意のジャッロ映画(前回コラム参照)のスタートで、とりあえず観客の興味は「この第三者は誰なのか?」に絞られます。なので、とりあえず登場人物を紹介しておきましょう。
シーサイドに建てたモダンな別荘に、秘書兼愛人のローラを連れ込んでいる建築家のヴェントーレ。彼は入江を埋め立てて歓楽街にしたいドナティ伯爵をそそのかし、漁夫の利を狙っていました。手漕ぎボートの中でタコを生で貪っているワイルドな若者は、伯爵夫人の火遊びでできた私生児のシモーネ。ドナティ邸の窓から見える場所に離れを建ててもらい、漁師をしながら気ままに暮らしています。そのシモーネとは馬が合う、変人の昆虫学者パオロ。埋め立ては環境破壊だと反対していました。その妻アンナは怪しさ漂う占い師です。
彼らはご近所さんですが、ローマに住むドナティ家の娘レナータと夫のアルベルトが、相続の件で2人の子供を連れて入江を訪れていました。夫婦はトレーラーハウスに滞在しながら行方不明の父親を捜し、昆虫学者夫妻からシモーネの存在を初めて知り驚くのでした。とまあ、この中にドナティ伯爵殺しの犯人がいるわけですが、物語は「えーっ」て感じの展開になります。
入江に、男女4人の若者が「キャッホー!」と車でやって来ます。80年代以降のホラー映画なら「あ、コイツラ死ぬな」と真っ先に死亡フラグが立つ連中です。ラジカセで音楽を流して踊り狂っている彼らを、木陰から不気味な目が覗いています。そのうち3人が留守のヴェントゥーラ邸に不法侵入します。1人だけ超超ミニで常にパンツ丸見えの娘が、あちこちに家が建っているというのにパッパと服と下着を脱ぎ捨て全裸で海へ飛び込みます。とにかく裸になって泳ぐというホラー映画のお約束。その元祖が同作品という説もあります。
すると海中で誰かの指先が娘のお尻をチョン。「キャッ」。だが痴漢の方がまだマシでした。プカ〜と浮かんできたのは、冒頭で殺された伯爵の死体だったのです。慌てて海から出てワンピースだけ着た娘はノーパンで仲間のもとへ急ぎますが、ナタを持った何者かに追いかけられます。お尻をチラチラさせながら逃げる女は、ヴェントゥーラ邸の庭先で喉をかっ切られ、下半身丸出しの恥ずかしい姿で絶命するのでした。さらに屋内で物音に気付いた男子がドアを開けた途端、顔面にナタがザクッ! 鼻の脇を、額から顎までキレイにナタが縦に刺さっています。屋内に侵入した襲撃者は、他人のベッドで勝手に性交している2人を見て、上に乗っていた女の背中に槍をグサッ! その切っ先はベッドの底から貫通しました。
さて、父親を探すレナータ達は、弟と発覚したシモーネを訪ねます。するとレナータはシモーネのボートの中で、顔の上にタコが這っている父親の遺体を発見して「キャー!」。デスマスクの上でペチャクリしてるタコを、バーヴァは何度も執拗に映します。タコを「悪魔の魚」と忌み嫌う西洋人にとっては最悪の絵面です。ホラー描写を美しく描くバーヴァですが、グロ表現もセンス抜群でした。
この後は怒涛の展開。父親の死体を見てフラフラになったレナータを、夫のアルベルトがヴェントゥーラ邸に運びます。そこで若者4人の死体を発見したレナータ、なぜかヴェントゥーラに斧で襲い掛かられ、逆にハサミで腹を刺してしまいます。倒れているヴェントゥーラを見つけた昆虫学者は警察に通報しようとしてアルベルトに絞殺され、妻のアンナはレナータが斧で首をスパッと断頭。超リアルな首の断面に、この時代の観客は腰を抜かしたかもしれません。このように普通の暮らしをしていた人達が、生き当たりばったりに殺し合いを始めるのです。
そこへ現れた秘書ローラをシモーネが絞殺します。伯爵と若者殺しはシモーネでした。ローラは入江を手に入れたいヴェントゥーラに命じられ、伯爵を誘惑してシモーネの母親を殺させていたのです。だがアルベルトがシモーネを槍で刺殺、ついでに実はまだ生きていたヴェントゥーラも撲殺します。翌日、邪魔者は全ていなくなり、遺産を独り占めできるとウキウキで帰宅準備をしている2人に「ママ、パパ」。声の方へ2人が満面の笑顔で振り向くと「ドーン!」。トレーラーハウスの窓から息子が彼らの散弾銃をオモチャと間違えて発砲したのでした。即死で動かなくなった両親に娘が「死んだフリが上手だね」。ラララ〜♪と楽しげな女性ハミングの曲が流れ出し、子供達が美しい入江の岸を走り抜けていきます。
私生児という立場に歪んだシモーネの単独犯行を描くのではなく、利権を巡って争いがエスカレートしていき人が死にまくり、最後は無邪気な子供によって幕引きという不条理な展開。6人の殺人者による13人の被害者。誰が誰を殺したのかそのうち分からなくなってしまい、トンデモないラストに全てが吹っ飛び「もう、どうでもいいや」と(笑)。殺しのシーンでは美しいピアノの旋律が流れ、入江に映える夕陽もまた美しく、これぞマリオ・バーヴァの美意識なのですが、残酷描写の評価は荒れました。バーヴァの『白い鞭に狂う肌』(63年)に主演していたクリストファー・リー(『吸血鬼ドラキュラ』など)は「完全に嫌悪感を抱いた」。他の映画関係者も「これまでの作品の中で最も失敗作。殺人シーンそれぞれが不快なほど細部にまでこだわっている」。「他人が殺されるのを見て快感を得る人々のために作られた映画だ。暴力はポルノに近い」などと散々でした。
ところが時の経過とともに次世代クリエーター達の間で評価が高まっていき、ナタを振るう殺人鬼、性交中のバカップルを槍でベッドごと貫通させる『13日の金曜日 PART2』は完全に影響を受けています。水と森のキャンプ地で、セックスしか頭にない若者男女が次々と惨殺されていく人気ジャンル「キャンプホラー」の起源がここにあると言ってよいでしょう。
これら見事な殺戮シーンを手掛けたのが、後に『エイリアン』(79年)と『E.T.』(82年)で、イタリア人として初めてアカデミー視覚効果賞を受賞したメイクアップ・アーチストのレジェンド、カルロ・ランバルディ。バーヴァ以前にも、アンディ・ミリガンやハーシェル・ゴードン・ルイスといった「ゴア(血糊)の帝王」と称された監督はいましたが、バーヴァはカルロ・ランバルディを起用する事で、特殊メイク効果による人体損壊描写に革命をもたらしたのです。1971年という時代を考えれば、これらの殺害シーンは観客にはかなりショッキングな映像だったでしょう。カルロ・ランバルディは同作で、各映画祭の最優秀メイクアップ特殊効果賞を受賞するのでした。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

