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あの「白鯨」は実在していた!エセックス号の悲劇 『白鯨との闘い』

白鯨との闘い(字幕版)
『白鯨との闘い(字幕版)』
ロン・ハワード,クリス・ヘムズワース,ベンジャミン・ウォーカー,キリアン・マーフィー,ベン・ウィショー,トム・ホランド,ブレンダン・グリーソン
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ハーマン・メルヴィルの『白鯨』というと、それを読んでいようがいまいが、誰もが名作!というイメージを持つだろう。実際、「アメリカ文学最大の小説」だとか「世界の十大小説」のひとつだとか、その評価には事欠かないし、幾度となく映画化が繰り返されてきたことは周知の通り。

自分の脚を食いちぎる巨大な白鯨への復讐劇、という内容からはなかなか信じがたいのだが、実はこの名作にはモデルになった実話がある。19世紀まで捕鯨の拠点として世界にその名を轟かせていた、マサチューセッツ州の最南端にあたるナンタケット島から出港した捕鯨船がマッコウクジラに襲われ沈没したという「1819年の捕鯨船エセックス号の悲劇」である。

映画『白鯨との闘い』は、小説『白鯨』ではなく、あくまでもエセックス号の事実に基づいた作品である点が、これまでの映像化とは一線を画すリアリティを生んでいて興味深い。しかし、メルヴィル作品へのリスペクトは忘れていない。物語は、作家メルヴィル(ベン・ウィショー)が一人の元船乗りを訪ねるところから始まる。偉大な小説を無視しない演出が粋なのである。

ベテランの捕鯨漁師でエセックス号の一等航海士チェイスに、クリス・ヘムズワース。オーウェンとは古くからの友人で親交が深い二等航海士のマシューにキリアン・マーフィー、監督は『アポロ13』『ラッシュ/プライドと友情』と実録映画をヒットに導いているR・ハワード。安心して身を委ねられる布陣だし、それを裏切らない。そして14歳の乗船員見習いには、デビュー間もないフレッシュなトム・ホランド。そう、マイティ・ソーとスパイダーマンの初共演を目撃できる。

実際に存在したこの巨体の白鯨は、最終的に殺されるまで、少なくとも100回以上の鯨捕りたちとの戦いを生き残ってきたと伝わっている。その呼吸は蒸気エンジンのようで、尾鰭の勢いで小さな船を難破させることができるほど。亡骸からは100バレル(15,900リットルほど)の鯨油が採れたというから、凄まじい。強烈で壮絶な冒険物語には、畏怖の念を抱かざるを得ないし、まごうことなき自然の美しさにひれ伏すしかない。

(文/峰典子)

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