イヌは進化したがネコは最初からネコだった 古生物の進化が教える"したたかに生き抜く戦略"

- 『古生物のしたたかな生き方』
- 土屋 健,芝原 暁彦,田中 順也
- 幻冬舎
- 1,650円(税込)

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人類の文明史が始まる以前に地球上に生息していた「古生物」。有名なところでは三葉虫や、カンブリア紀のアノマロカリスがいる。もちろんジュラ紀や白亜紀の地球上を支配していた恐竜も古生物だ。彼らの中にはとっくに絶滅してしまった種もあるが、環境に適応して進化を繰り返し、現代に生息する生き物の祖となった種もある。そんな古生物たちの姿から、現代を生きる私たちが学ぶべき"何か"を集めたのが『古生物のしたたかな生き方』(幻冬舎)だ。
たとえば、現代では家族の一員として飼育されかわいがられているイヌ。イヌの歴史を遡ると、約5500万年前に登場した「ミアキス類」という種にたどり着く。ミアキス類は亜熱帯の森林に暮らし、地上と樹上を生活圏としていたと推測されている。しかし地球の寒冷化が進むにつれて森林は縮小し、これまでの"楽園のような"暮らしはできなくなっていった。
そこで、ミアキス類の一部のグループは森林の外に世界を広げることにしたという。そして樹上生活を捨てたことによって、長時間走り回れるよう股関節の動きや足の形が進化。今のイヌ類へと近づいていったのだ。柔軟に環境に適応したことによって、生き残ることができたイヌ。しかし、この柔軟性も時には考えものかもしれないと著者の土屋 健氏はいう。
遺伝子の変化による特徴が表に現れやすいというイヌの遺伝子の特徴を利用して、人類はさまざまな犬種を作り出してきた。しかしそれが、人間がいなければ生活ができない犬種や、犬種特有の遺伝的病や障害を引き継ぎやすい犬種を生むことになったのだ。
「環境の変化への"柔軟な対応"は命脈を保つことにつながったが、"無理な対応"は、さまざまな問題を生むことになった」(本書より)
イヌ類の歴史を人間社会に置き換えるとどうだろう。社内の変化に柔軟に対応し、うまく生き延びていく。もちろんそれも結構だが、あまりに対応しすぎてしまうと会社"外"では一切通用しない人材になってしまう、そんな危険性もあるかもしれない。
一方、イヌとは対称的に姿をほぼ変えず生き延びた種もある。イヌと並びペットとして高い人気を誇るネコだ。ネコの歴史もイヌと同じくミアキス類から始まる。しかし地球の寒冷化で草原に適応し進化したイヌとは異なり、ネコ類は森林にとどまり続けた。その後、今のネコ類にたどり着くまでにさまざまな種類が現れたが、犬歯が長かったなどの特徴はあれども、全体的には現生のネコ類と変わらぬ姿をしていたらしい。一体これは何を意味するのだろうか。
「一つ言えることは、『ネコは最初からネコ』であり、そして生態系の上位に君臨する"強者"であり続けた。そして、現在も"強者"であり続けているということだ」(本書より)
考えてみれば、現代の生態系の強者である百獣の王・ライオンもネコ類だ。実社会でも、強者であれば環境に合わせて自分を変える必要はない。人にはない"強み"を持っていれば、どんな環境でも自分のスタイルで生きていけるということではないだろうか。
柔軟に対応するのも強者になるのも、なかなかハードルが高い......。そんな人には"無気力"を極めて大繁栄した古生物をおすすめしたい。それは、「腕足動物」というグループだ。腕足動物は2枚の殻を持ち、それが蝶番や筋肉で繋がっているという、一見すると二枚貝類とよく似た姿を持つ。
古生代から特にデボン紀に大繁栄したとされ、化石種は5万種を数える。腕足動物の1つ、パラスピリファーは船の竜骨のように前方に湾曲した殻を持っていた。竜骨状の形は殻の中に水流を取り込むことに役立ち、しかも取り込まれた水は殻の中で自然と螺旋を描くという。すなわちパラスピリファーは少し口を開けるだけで、勝手に水流とともに餌が口の中に入ってくるという「究極の無気力器官」を持っていたのだ。
驚くべき無気力だが、ワーゲノコンカという腕足動物はパラスピリファーのさらに上をいく。こちらは雪かき用のスコップのような形状をしていて、2枚の殻の開閉軸付近に小さな三角形の突起があるのが特徴だ。
「この殻の形状が独特で、あらゆる方向の水流を(弱いながらも)自然に殻の中へ取り込んでいく。つまり、ワーゲノコンカは『ただそこにいるだけ』で、餌が運ばれてくる姿をしていたのである。無気力というべきか、怠け者の極致というべきか。ある意味で凄まじい生き方といえよう」(本書より)
無気力を極めた腕足動物だが、ペルム紀末に発生した空前絶後の大量絶滅事件を無事に乗り切ることはできなかった。怠け者が消えゆくのは当然と言えば当然なのだが、それでも「完全に絶滅はしなかった」のである。腕足動物は現在でも約380種が生き残っているのだ。無気力を極めたものは衰退するかも知れないが"意外としぶとい"という側面も持つのだろう。
じつは現代を生きるヒントが詰まった古生物の世界。「あ、こいつ俺に似ているかも」などと思いながら読んでみると楽しいのではないだろうか。
