もやもやレビュー

アイラブユーをストレートに伝えるべきか否か『歩いても 歩いても』

歩いても 歩いても
『歩いても 歩いても』
是枝裕和,加藤悦弘,田口聖,是枝裕和,阿部寛,夏川結衣,YOU,高橋和也
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海外ドラマなんかを観ると、親が子に「世界で一番大事なベイビー、アイラブユー!」と素直に愛情表現をしているのを時々目にする。しかし、海を渡り日本に足を踏み入れると「アイラブユー」と子に言う親はめっきり減る(気がする)。特に子どもが立派な大人だとなおさらだ。その理由に、いわなくたって愛してるのよ!という照れ隠しもあったりするが、果たしてそれで伝わるのか!?という説もある。

是枝裕和監督の『歩いても歩いても』(2008年)は「アイラブユー」という言葉が出なくて当たり前の日本の家族の話だ。大人になった子どもたちが自分たちの家族を連れ、ある夏、親のもとを訪れる。たった2日間の話から、それぞれの人柄、関係性や過去、そしてみんながそもそも集まった理由がみるみると浮かび上がる。

ここで愛情表現が不器用な人として、父親(原田芳雄)の存在が目立つ。年にほんの数回しか会えない娘(YOU)と息子(阿部寛)がせっかく来ているというのに、自分の部屋にこもりっぱなし。目を合わせるのすらちょっぴり苦手そうで、やや威圧感あり。それなのに娘家族が帰ると「晩御飯までいればよかったのに」とぽろり。息子家族が帰ると「次は正月か」なんて言葉をもらしている。

自分のもとを最終的に離れていく子どもを惜しむその言葉こそが、日本的なアイラブユーなんだ!そう思い、胸が勝手にじーんとなるが、肝心な娘息子がそれを耳にしていないことにハッと気づく。せっかくのアイラブユーが届いていないのだ。たとえ「いまごろ父さん、あんなこといってるかも」と想像できたとしても、それを愛情ととらえるかはまた別の話である。かといって、ストレートに「会いに来てくれてありがとう」というのはどこかむずがゆい......という人も少なくないかもしれない。文化とは厄介である。

ちなみに本作は是枝監督が亡き母を思い出しながらつくられており、洋服選びから料理をしているときの音など細部まで記憶を辿り、映像に詰め込んだのだそう。これもある意味で届かないアイラブユーの類かと思うと、胸が詰まる。

生きていようとそうでなかろうと、相手の愛情や優しさを想像するのは、大切なことなのかもしれない。そうは思ってもいざとなるとできていないことにハッとするが、『歩いても 歩いても』を観て、時折その教訓を思い出したいと心に誓うのであった。

(文/鈴木未来)

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