もやもやレビュー

冒頭だけは胸が熱くなるヒーロー映画『ヴァレンタイン ヒーロー誕生』

ヴァレンタイン ヒーロー誕生 [DVD]
『ヴァレンタイン ヒーロー誕生 [DVD]』
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インドネシアのスーパーヒーロー映画という、あまり見ないジャンルに挑戦しようと思ったもののジャケットに写る主人公の姿を目にした瞬間「安いコスプレみたいな恰好しているなぁ」と悪い予感しかしなかった。既視感しかない設定やアクション物なのに壊滅的に下手なカメラワークなど、果たして予想が裏切られることなく虚無感に襲われた訳だが作中でコスプレの出来が酷い理由だけは納得ができた。それ以外はもう少しどうにかならなかったのか?という演出が延々と続く。外国人には他国の馴染みのないスーパーヒーローというものに感情移入が難しいことを差し引いてもお粗末だ。

舞台はインドネシアの大都市バタヴィアシティ。今でいう首都ジャカルタだ。ここでは犯罪組織による凶悪犯罪が横行している。取り締まる警察組織も腐敗しており警視庁長官の息子がドラッグをばらまく始末。ほぼゴッサムシティだ。

謎の覆面男のシャドーが一味の女性3人を従えテレビ放送を電波ジャックし、自分に従う市民は守ると宣言している一方、主人公のスリマヤは女優を夢見て大学を中退し現在はカフェのアルバイトで生計を立て母親や兄で警察官のウンブラから心配されていた。
一方、テレビプロデューサーのボノはヴァレンタインというスーパーヒーロー映画の企画を売り込むものの全く取り合ってもらえず途方に暮れていた。そんな時にスリマヤの働くカフェに立ち寄った際、東南アジアの伝統武術シラットで迷惑客を撃退する姿を目撃。ボノにスカウトされる。
ボノはスリマヤにヴァレンタインのコスチュームを着せ実際に街の悪党を撃退する様を動画にアップし始めると、その姿が人々の支持を集め始め――という内容。

既視感があっても王道と言えば王道な展開と視聴できたのはここまでだった。ベタながらも主人公が成功していく過程は面白い。ジャケット写真のチープなコスプレ姿も本当にコスプレなのだから仕方がない。

シャドーがいきなり警察などを殺害し始めるのが理解不能だし、何よりヒーロー映画でシラットを全面に押し出しているのにアクションシーンが下手すぎる。チープなヒーロー衣装と相まって学生映画を観ているようだ。あと本作が連作のうちの1作ということもあって様々な伏線が回収されずに終わったため内容がしっくりこない。何せ敵の死体が盗まれてエンドロールが流れるのだから。もっとも、本作がインドネシアの漫画が原作のため知識があればまた違った見え方があったのかも知れない。

しかし、日本で見たこともない漫画の知識を事前に仕入れろと言われてもなかなか無理な話。今のところ既視感のある設定が盛りだくさんなのによく分からない設定を放り込まれて世界観が理解できないという感想しか出てこず、間違っても原作をチェックしようと思わない。

(文/畑中雄也)

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