もやもやレビュー

運転への恐怖心を煽られる『お!バカんす家族』

お! バカんす家族 [Blu-ray]
『お! バカんす家族 [Blu-ray]』
エド・ヘルムズ,クリスティナ・アップルゲイト,レスリー・マン,クリス・ヘムズワース,ジョナサン・ゴールドスタイン
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 50代半ばにして自動車教習所に通っている。といっても自動車免許自体は30年以上前に取得し、以後はかなり頻繁にそこそこ遠方まで運転していたこともある。が、ある時期を境に運転席から遠ざかり、今世紀に入ってからはハンドルを握っていない。これまではそれでも問題なかったのだが、問題が生じてからでは遅く、そろそろ問題が生じそうな気もしないでもないので、今のうちにペーパードライバー講習に通うことにした次第。

 久々に運転してみると、案外体が覚えているのか、前世紀に比べて指導員が明らかに優しくなったのか、なんともスムーズに運転できている気がする。これなら近所の行き来だけでなく、いずれは自動車旅行を考えてもいいのではないか。

 『お!バカんす家族』(2015)は、レンタカーでバカンスに出かける家族が主人公のコメディ映画。友人一家の不必要なまでにスキンシップが激しい様子を見て、家族の絆が薄れている気がしてしまったお父さんが、妻と二人の息子を連れて、カリフォルニアのテーマパークへ向かう、その珍道中が描かれる。

 本作は『ホリデーロード4000キロ』(1983)、『ナショナル・ランプーンズ・ヨーロピアン・ヴァケーション』(1985)、『ナショナル・ランプーン/クリスマス・バケーション』(1989)、『ベガス・バケーション』(1997)、『National Lampoon's Christmas Vacation 2』(2003、日本未公開のテレビ用スピンオフ)と続いてきたシリーズの最新作。本作のお父さん=ラスティ・グリズウォルド(エド・ヘルムズ)は、今まではその父クラーク・グリズウォルド(チェビー・チェイス)発案による家族旅行先で様々なトラブルに巻き込まれてきたキャラクター。『お!バカんす家族』ではその彼が成長し一家の大黒柱となり、父と同じく家族サービスに大奮闘。目指すテーマパークは『ホリデーロード4000キロ』の目的地でもあり、ラスティにとっては家族旅行といえばここ、の思い出の場所だ。

 もっとも、実際には家族の絆に対する焦りはラスティの一人合点によるもので、妻とは週一ぐらいの頻度で夜の営みが継続、長男は思春期を迎えつつも父を尊敬、次男だけは度を超えた悪戯を繰り返すもののちゃんとしっぺ返しがあり、映画的にはもうちょっとハラハラさせてくれてもいいんじゃない? というぐらいハラハラすることのない安心感が続く。

 代わりにあるのが家族が行く先々で遭遇するトラブルの数々。穴場の温泉を見つけ体に良いからと泥を塗りたくっていたら実は汚水処理場で全身人糞まみれだったとか、妻の母校に立ち寄ったら伝説のビッチとして名を馳せていたため内緒にしていた過去がバレちゃうとか、ラスティの妹宅ではその夫(クリス・ヘムズワース)が異様なまでに発達した筋肉と股間を見せつけてくるとか、突発的というか勃発的というか場当たり的などうしようもない事件事故が多発する。

 中でも久々に自動車運転にチャレンジ中の身としては、最新技術を搭載したレンタカーのためちょっとした誤操作で制御不能になったり、巨大なトラックに延々と追い回されたりといった出来事は、あくまでもコメディでありながらも起こってしまったら避けようがなく、笑いながらも恐ろしい。

 といっても運転技術的にはラスティはそれほどひどいわけでもない。むしろ父クラークの方が圧倒的に危険だったはず。『ヨーロピアン・ヴァケーション』では自動車をぶつけてストーンヘンジがドミノ倒し、なんて場面もあったし。

 そんなわけで久々に自動車運転に励もうとする立場からすると恐怖心が煽られてしまう展開が多々あるのだが、正面からこれを見ることによって安全運転の重要性を認識することができていれば良いかもな、反面教師的に、と思いました。

(文/田中元)

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