もやもやレビュー

今の分断の時代にこそ観てほしい。『差別』

映画『差別』は、2010年4月に始まった高校無償化制度から朝鮮学校だけが除外されたことによって、様々な地域の朝鮮学校が撤廃を訴えて訴訟を起こした成り行きをカメラで撮り続けたドキュメンタリー映画である。

監督は、韓国人ドキュメンタリー作家のキム・ジウン。「航路-済州、朝鮮、大阪」などの作品がある。

10年に民主党政権が高校無償化を導入、朝鮮学校の適用を見送り、第二次安倍晋三内閣時に、「拉致問題の進展がないこと、朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること等から現時点の規定には国民の理解が得られず、不指定の方向で進めたい」との理由で、適用から除外された。

結局、どの裁判も、2019年に最高裁への上告棄却で原告敗訴した。そこで、フィルムは終わる。

僕の個人的な体験になるが、僕の中学校の隣に、中大阪朝鮮初中級学校があった。校庭から聞こえてくる聞きなれない言葉を真似して遊んだりしていた。そこに悪意はまったくなかったが、今考えると、無知なことほど恐ろしいものはないと痛感する。

僕の中学校は、コリアンタウンの鶴橋も近くにあり、当然、中学の同級生にも在日朝鮮人や韓国人が多かった。僕はそのことにも無頓着で、差別の存在など知らなかった。

ある日、友人が、思い詰めた表情で、「僕には違う名前がある」と言ってきた日のことを今でも鮮明に覚えている。僕は、「なんて名前なん?」と気軽に聞いたが、その友人は差別するから教えないと拒んだ。そのときの僕の無知加減に呆れると同時に、友人の勇気を振り絞った告白にどうしてちゃんと対峙できなかったのだろうという後悔が今でも心の片隅に澱のように残っている。

若者を中心に朝鮮半島のイメージは変わりつつあると言われているが、こういう歴史を知った上でぜひ相互理解に励んでほしい。僕みたいな無頓着な若者にならないためにも。寝た子を起こすなという言葉は、思考停止の言葉であると自戒しつつ。

(文/神田桂一)

映画「差別」オンライン公開(寄付制)
https://vimeo.com/manage/videos/947245835
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