もやもやレビュー

史上最強の大学映画である。『ドレミファ娘の血は騒ぐ』

ドレミファ娘の血は騒ぐ (HDリマスター版) [DVD]
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洞口依子,伊丹十三,麻生うさぎ,黒沢清
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「大学っておかしなとこですね。お祭りみたい。ていうか、遊園地みたい。戦場かな」

印象的な単音のピアノ音で始まるこの映画は、主人公の洞口依子が口にするこのセリフに集約されている気がする。

世界の黒沢清の劇場第二作である『ドレミファ娘の血は騒ぐ』は、先輩の吉岡さんを追って東京の大学に潜り込んで来た主人公の女の子である洞口依子が、先輩の所属先のゼミに参加することになり、変なことに巻き込まれていくというストーリーだが、ストーリーなんてあってないようなものだ。

実験的な映像の断片の繋ぎ合わせといったほうがいい。いかにも自主映画っぽいのだが、それが、偶然か必然か、大学というもののメタファーにもなっている。

伊丹十三演じる恥ずかしゼミでのアカデミックなのかナンセンスなのかわからないギリギリの会話、ところどころ差し込まれるエロティックな映像、学生運動っぽい活動をしている人々の画、そのどれもが、我々が妄想する大学生活の象徴であり、徹底的に何もかもが非生産的であり、モラトリアムである。

大人はそれに郷愁を感じ、高校生はそれに憧れを感じる。そして大学生は何も感じないに違いない。

それは、渦中にいるときには、それを気づくことが困難なのに似ている。青春はあとになって振り返って初めて気づくものなのだ。そして、大学生活は、紛れもなく青春期の一部だ。

(文/神田桂一)

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