あなたも私も、みんなの夢にニコラス・ケイジが出現 『ドリーム・シナリオ』
- 『ドリーム・シナリオ』
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借金返済のためなのか、声をかけられてこその役者だからなのか。仕事を断らないことで有名(?)なニコラス・ケイジだが、ここ数年面白い作品への出演が続いており好調のよう(育児のための引退を仄めかしてはいるが)。しかもアリ・アスター製作のA24作品と聞けば、ひさびさにN・ケイジをスクリーンで観たという人も多いのではないだろうか。まだの人はぜひ配信でご覧いただきたい。
設定はかなり奇奇怪怪。アメリカに住む大学教授である白人男性ポールが、とつぜんありとあらゆる人の夢のなかに夜な夜な登場するようになる。他に何もしていないにもかかわらずセレブとして持ち上げられるのだが、それも僅か。ただ奇妙だった夢から淫夢や暴力的なものになり、SNSやマスコミを中心に害悪な人間として突き落とされる。ダイナーで食事しているだけで「みんなが不安がるから出ていけ」と店の人に追い出される始末。
ただ、ポールに100%同情できない気持ちもあるのは、彼にも自己中な部分や強い承認欲求があり、緩んだ顔つきでニュース取材に応えたり、インフルエンサーを抱える事務所に所属しようとしたりするところ。哀しいかな、ポールが大学院時代から研究してきた「アリのコロニーのアルゴリズム」を自ら体現するように、集団行動の怖さがジリジリと伝わってくる。ハードコアや血みどろな表現はなく、不条理な状況をユーモラスに表現していて、クスリと笑えるところもあり。誰が見てもニコラスの当たり役、彼にしかできない作品だと思う。
(文/峰典子)