もやもやレビュー

優しい人はいかに搾取されやすいか『胸騒ぎ』

胸騒ぎ
『胸騒ぎ』
クリスチャン・タフドルップ,ヤコブ・ヤレク,クリスチャン・タフドルップ,マッズ・タフドルップ,モルテン・ブリアン,スィセル・スィーム・コク,フェジャ・ファン・フェット,カリーナ・スムルダース,リーヴァ・フォシュベリ,マリウス・ダムスレフ,イシェーム・ヤクビ,イェスパ・デュポン,リーア・バーストルップ・ラネ,エードリアン・ブランシャール,サリナ・マリア・ラウサ,イラリア・ディ・ライモ
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

 デンマークの映画監督、クリスチャン・タフドルップの『胸騒ぎ』。ブラムハウスがリメイクし、ジェームズ・マカヴォイが主演を務めた『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』が昨年2月に日本公開されましたが、そのオリジナル版である『胸騒ぎ』は、少し展開が違うため、ぜひチェックしてみて欲しい一本。

 休暇でイタリア・トスカーナを訪れたデンマーク人夫妻のビャアンとルイーセ、そして一人娘のアウネス。彼らは、"親切"なオランダ人夫妻のパトリックとカリン、息子のアベールと出会い意気投合します。そしてパトリックとカリンから、家に遊びに来て欲しいと招待されます。ルイーセは彼らのことをよく知らないため戸惑いますが、一方で、冒険的な旅になると感じたビャアンは興奮気味。「別に最悪なことが起こっても、それは大したことはないだろう」という考えで、パトリックとカリンの家を訪れることにします。再会時はとても親切だったパトリックたちでしたが、事態はどんどんおかしくなっていきます。

 パトリックはルイーズがベジタリアンであることを忘れていたり、彼らの教育方針が厳しすぎたりなど、"何かが少しおかしい"この一家。しかしビャアンたちは「まだ友達になりきれていない他人」に口出しできることはなく、果たして文化の違いなのか、自分たちの誤解なのか、戸惑います。本作で興味深いのは、映画の冒頭から不穏な音楽が使われていること。「不吉なことしか起こらない」と感じさせられるその演出の中で光るパトリックたちの「親切心」には恐怖を感じます。優しい人がいかに搾取されやすいかを描いているような本作、最後にパトリックが放つ「ひと言」に鳥肌が立ちっぱなしでした。人に優しくすることは自分にとって本当にいいことなのだろうか......と考えさせられた一本です。

(文/トキエス)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOK STANDプレミアム