もやもやレビュー

"ドリーム"の持つ音の響きとは。『ドリーム・ホース』

ドリーム・ホース
『ドリーム・ホース』
ユーロス・リン,ニール・マッケイ,トニ・コレット,ダミアン・ルイス,オーウェン・ティール,ジョアンナ・ペイジ,ニコラス・ファレル
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"ドリーム・ジャンボ""アメリカンドリーム"など、"ドリーム"の持つ音の響きには、夢を見させてくれるようなワクワクがあると思います。タイトルの『ドリーム・ホース』も同様でした。

本作は実話です。2009年当時、大きな感動を呼び、注目を集め、2015年にはドキュメンタリー映画が制作され、サンダンス映画祭で観客賞を受賞。今回満を持して長編映画化となりました。

 イギリスはウェールズの小さな村で暮らすジャン(トニ・コレット)は、スーパーのレジ打ちと労働者クラブのサービス係のパートを掛け持ちしながら、親の介護と家事をするという繰り返しの毎日を過ごしていました。
 ある時、勤め先のクラブに馬主経験者の税理士・ハワード(ダミアン・ルイス)が客としてやってきます。幼少期からウサギや犬を飼育しドッグレースや鳩レースで勝った経験があるジャンは、ハワードの会話から、自分で競走馬を育ててみることを思いつきます。
 そして、夫ブライアン(オーウェン・ティール)を説得し、血統の良い牝馬を貯金をはたいて購入し、競走馬を育てるための資金を集めるために村の皆に協力を呼びかけるチラシを配るという行動に移します。

 最初こそ相手にされなかったジャンでしたが、自身の行動力と熱意からハワードの協力をこぎつけ、村の皆で週10ポンドずつ出し合う馬主組合を作り、「ドリームアライアンス(夢の共同)」を育てることに成功します。その中で重要なのは、決して金儲けしようとするのではなく、「胸の高鳴り(ウェールズ語でホウィル)」を求めることと決めます。
 そして、皆の退屈な日々に変化がみられていきます。

 ウイスキー入り(?)のお菓子ばかり買いあさっていたモーリーンおばあちゃんや、酒浸りのカービーおじいちゃんも、"馬"貯金したり馬主組合の会合をカレンダーに書きこんで待ちわびたり。無職だったジャンの夫も、ドリームアライアンスを愛情深く育てます。そして初出馬が決まれば、レジ打ちのパート中だったジャンも思わず叫び出します。皆の表情が明るく、生き生きしている様が伝わります。夢中になれるものがあると、生活にダイレクトに影響して、良い活力になるんですね。退屈だと思っていた日々が、行動することでこんなにも変えることができる。新年からとても元気をもらえる一作です。
 
 競馬のレースのシーンも、主人公ジャンの迫真の演技(特に表情がいいんです)と合わせて、緊張感や臨場感たっぷりで、本物の競馬を観ている気分を味わえます。というか、むしろドリームアライアンスに賭けている気になって、思わず手に汗握ってました。
 ちなみにドリームアライアンスの生涯賞金額は137.000ポンドだそうです。(だいたい2600万くらい...!)

(文/森山梓)

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