もやもやレビュー

シリア難民の男が生けるアート作品に『皮膚を売った男』

皮膚を売った男(字幕版)
『皮膚を売った男(字幕版)』
カウテール・ベン・ハニア,カウテール・ベン・ハニア,ヤヤ・マへイニ,モニカ・ベルッチ,ディア・リアン,ケーン・デ・ボーウ,ヴィム・デルボア
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前知識なく鑑賞。どストレートなタイトルゆえ、ハードコアなホラームービーだと思ったのだが、これが想像とは異なる社会派のストーリー。主人公はシリアで疑惑を持たれ、やむなくベルギーに逃げた男サム。国に帰れず難民状態になってしまうなか、偶然に知り合った現代アーティストと契約を交わし、彼の身体はタトゥーを施された「作品」として管理されることに。

いつしか世界のアート批評家からも注目され、高額で取引される身になるサム。皮膚と引き換えに富を得ることが叶うも、自由と尊厳を失ってしまう。展示のために静かに座る彼の目は虚しさを煮詰めたようで、とても多くを語っているように見えた。

タトゥーを題材にしながらも不思議と派手さがなく、予測のつかないミステリアスな展開。難民問題や人権問題が絡んできたり、現代アートシーンを揶揄していたりと、驚きも隠せない。サムは見せ物のように利用されている弱者に見えるかもしれないけど、本人が望んでしていることであり、恵まれた側を批判すれば良いという単純なものでもないのかもしれない。

ちなみに、この『皮膚を売った男』は、エキセントリックな物語のように思えるが、ベルギーのアーティスト、ヴィム・デルボアの「Tim」という作品から着想を得たとか。実際に人間にタトゥーを彫って作品として扱い、オークションでコレクターに売却されたという。映画のとおり、モデルは背中を提供する契約を結んでいたようなので、この映画も完全たるフィクションとは言えない。人権やアートの線引きについて改めて考えさせられてしまう。

(文/峰典子)

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