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【無観客! 誰も観ない映画祭 第39回】『蛇娘と白髪魔』

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『蛇娘と白髪魔』
1968年・大映京都・82分(モノクロ)
監督/湯浅憲明
脚本/長谷川公之
出演/松井八知栄、高橋まゆみ、平泉征、浜田ゆう子、北原義郎、目黒幸子ほか

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 昨年の10月28日、恐怖漫画の鬼才・楳図かずお先生が天に召されました(享年88歳)。そこで巳年の今年1発目は単なる追悼ではなく、初期の楳図先生が少女誌で連発していた「蛇もの」の映画化について述べます。『口が耳までさける時』(60年)を皮切りに、『ヘビおばさん』(64年)、『ママがこわい』(65年)、『まだらの少女』(65年)、『へび少女』(66年)と続き、『うろこの顔』(68年)掲載後に楳図かずお原作の初映像化作品『蛇娘と白髪魔』が製作されたのです。内容は「蛇もの」からイイトコ取りしたものをベースに、『紅グモ』(65年)、『赤んぼ少女』(67年)、『ミイラ先生』(67年)をブレンドした、言わば初期楳図作品の集大成でした。


 その背景には『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメ化に代表される1968年の「妖怪ブーム」があり、ガメラシリーズの大映は『妖怪百物語』(68年)、『妖怪大戦争』(68年)、『東海道お化け道中』(69年)といった妖怪3部作を製作しました。そこで白羽の矢が立ったのが楳図先生だったのです。本作は『妖怪大戦争』と2本立てで公開され、昭和ガメラ全7作を務めた湯浅憲明が監督に抜擢されました。漫画も楳図先生が映画の脚本を元に描き下ろし、少女向けグループサウンズ誌『ティーン・ルック』(主婦と生活社)で公開時に全3回が連載されました。

 さて本作のヒロイン役は、ショートカットがお似合いの美少女・松井八知栄(やちえ)。公開時に放送中だった水木しげる原作の特撮ドラマ『河童の三平 妖怪大作戦』(68~69年)の河童国の王女・カン子役として人気急上昇中でした。しかし幼少時から芸能界で活躍していた八知栄ちゃん(当時10歳)、「こんなバカバカしい番組、出てられないわ」と身も蓋もない衝撃発言で大人たちを困らせ、全26話の番組を14話で降板。しばらくするとプロボウラー(しかもトップクラスの!)に転身していたのには驚きました。

 ある日、孤児院「めぐみ園」で10歳まで過ごしていた小百合(松井八知栄)の両親が見つかり、父親の南條が迎えに来ます。小百合達と共に育ち、今はめぐみ園の事務をしている達也は、彼女へ大きなお人形をプレゼントします。演じたのは、凶悪犯やヤクザ、ホームドラマから特撮まで何でもこなし、ここ数年は口調をモノマネされる丸顔の好々爺ポジションに収まっている若き日の平泉征(現・平泉成)。現在とは別人のごとく爽やかなイケメンでした。

 南條家は東京世田谷の高級住宅街・成城に佇む大屋敷。父親の職業は生物毒の研究者で、母親は半年前に交通事故で頭を打ち記憶喪失になっていました。住み込みの家政婦シゲもいて、今日から小百合も孤児から一転、成城住まいのお嬢様......のはずでしたが、到着していきなり通いのお手伝いさんが変死。その夜から布団に蛇が紛れ込むわ、牙の生えた口裂け女(蛇女のメイクなのでしょうが、楳図先生の絵を再現できていません)が出るわと怪事件が頻発します。さらにお母様は、夫に内緒で屋根裏部屋に隠していたタマミを「お姉様よ」と紹介します。タマミ......楳図マニアなら誰もが知っている『赤んぼ少女』(後『のろいの館』に改題)のキャラ名ですね。タマミは小百合の2歳上で、美少女の小百合とは違ってキツイ目つきに顔面も何か異様です(後述)。ところが達也お兄さんからもらったお人形をバラバラにするなど、その日から小百合に対するタマミの陰湿なイジメが始まります。

 やがて小百合は、タマミの背中に蛇のウロコがびっしり生えていることを知ります。逆上したタマミは小百合の前で生きているカエルの両足を左右に「バリッ」と引き裂き、悲鳴を上げている彼女の顔に「ベチャッ」と叩きつけます。一方達也お兄さんは、園長からタマミの過去を聞かされます。タマミは幼少の頃から勉強を全くしないで蛇とばかり遊んでいて、2年前の小6の時、クラス1の美少女に嫉妬して「ほうら」と怖がらせていた蛇に自分が咬みつかれました。するとタマミは自分が蛇になったと思い込み、父親に精神病院施設へ入れられたのです。だが母親が夫に内緒で退所させ、屋根裏部屋で世話していたのでした。それを聞いた達也お兄さんは「でも精神異常で背中にウロコまで生えるでしょうか?」(ごもっとも)。

 小百合から部屋を奪ったタマミは、お母様が小百合のために用意していた可愛らしい服に着替え、鏡台に座ると顔の皮をフェイスパックみたいにピリピリと剥がし始めます。するとその下には大きなアザがあり、「この顔じゃ、どんなにオシャレしたって......」とタマミは狂ったようにクローゼット内の服を投げ散らかし、ベッドに泣き伏します。顔面の違和感は、顔のアザを皮膚に似せた膜で隠していたからだったのです。

 さらに、その晩から「へッへッヒッヒッ」と白髪の奇怪なババアが家の中に出没するようになり、首を絞められた小百合はもう耐え切れなくなりパジャマのまま家を飛び出します。小百合はタクシーを停め「変な人に追われているんです!」。「変な人? 早く乗りなさい!」と受け止めてくれたタクシー運転手は......おお? 楳図先生ご本人! のぞみ園まで送り届けた楳図運転手、運賃ももらわず「気をつけてね」と凛々しい表情で去っていくのでした。深夜に叩き起こされた達也お兄さんと園長先生。すると園長から、またしても驚くべき真相が語られます(小出しかい!)。実は小百合とタマミは新生児の取り違えで、タマミは南條家の本当の子ではなかったのです。「早く言ってよ」って感じですが、果たしてタマミと白髪ババアの正体は?


 松井八知栄はシーンごとに変えるファッションもキッズスターとしての見せ場ですが、それに対し高橋まゆみは可愛く生まれた妹に嫉妬して虐め抜く醜い蛇女に徹します。小百合の恐怖に歪む顔とタマミの怖い顔を交互に、または同一画面に並べて映す演出が執拗に繰り返され、悪趣味でさえありました。高橋まゆみはウィキペディアも存在しない無名女優で、1956年の子役デビュー以降、この作品を最後に劇場作品のキャリアは途絶えていますが、テレビドラマでは同じ湯浅監督の『おくさまは18歳』(70~71年)で、主演・岡崎友紀のクラスメートを朗らかに演じていました。そんな高橋まゆみの熱演にもエールを送りたいと思います。ちなみに楳図映画第2弾は、『週刊少年キング』(少年画報社)で連載されていた『猫目小僧』が企画に上がっていましたが実現には至らず、その後テレビアニメ化(76年)を経て、2006年になって井口昇監督でようやく映画化されるのでした。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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