【無観客! 誰も観ない映画祭 第34回】ロジャー・コーマン追悼企画その3 『血まみれギャングママ』
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〜追悼 「B級映画の帝王」ロジャー・コーマン〜
今年5月9日、「B級映画の帝王」「低予算映画の巨匠」といった異名を恣(ほしいまま)にしたハリウッドの名プロデューサー、ロジャー・コーマンが死去しました(享年98歳)。『アッシャー家の惨劇』(60年)などのエドガー・アラン・ポー原作作品を数多く手掛け、無名時代のジャック・ニコルソンが出演していた『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(60年)、デヴィッド・キャラダイン主演でブレイク直前のシルベスター・スタローンも出ていた『デス・レース2000年』(75年)など、SF・ホラー・アクションを中心に300本を超える作品をプロデュース、うち50本を自ら監督しました。彼に見い出された、というより安い賃金でコキ使われた(笑)若手スタッフ・俳優の中には、ジェームズ・キャメロン、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、スティーヴン・スピルバーグ、ジャック・ニコルソン、ピーター・フォンダ、ロバート・デニーロなど錚々たる顔ぶれが牙を磨いていたのです。このコラムではその偉大な業績に敬意を表し、数回に渡って作品を紹介していこうと思います。
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『血まみれギャングママ』
1970年・アメリカ・90分
監督/ロジャー・コーマン
脚本/ドン・ピーターズ、ロバート・トム
出演/シェリー・ウィンタース、ブルース・ダーン、ドン・ストラウド、ロバート・ウォルデン、アレックス・ニコル、ロバート・デ・ニーロ、パット・ヒングルほか
原題『BLOODY MAMA』
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1930年代のアメリカ大恐慌時代、強盗団バーカー一家の女ボス、人呼んで「ケイト・マ・バーカー」(「マ」は「母ちゃん」のスラング)が荒らし回っていました。ケイトは酒浸りの夫と離縁し、4人の息子達を女手一つで育て上げます。貧しい環境で育った4兄弟は、手に負えない無法者となり犯罪を繰り返すのですが、ケイトは叱るどころか息子たちを庇い立て、バーカー一家はお尋ね者となります。やがて上の3兄弟が逮捕され、1935年、隠れ家に潜伏していたケイトと末っ子は、FBIと45分間に及ぶ銃撃戦の末、蜂の巣にされるのでした。このアメリカ犯罪史に残る実話を、ロジャー・コーマンが面白くアレンジした『血まみれギャングママ』は、彼のお気に入り作品の一つになりました。
物語はスタートから驚かされます。森の中を走る12歳前後の少女を、中学生くらいの男の子2人とオジサンが追いかけています。追いついた男の子達に取り押さえられた少女はオジサンに向って「パパ、助けて!」。「ケイト、大人しく相手しろ。パパの言う事を聞け!」。え、パパ? 男の子達も「早くやっちまえ」、「ヘンリー、妹を押さえてろ」。い、妹? ......状況が全く飲み込めません。ここで妹の服を脱がせた兄がひと言、「ケイト、意外と毛深いな」。実際のケイトは敬虔なクリスチャン家庭で生まれ育ちながら、父親の性的虐待を受けていたと言われてますが、極めて胸クソ悪い冒頭部です。
泣きながら森を歩いて帰るケイトは、「私のためなら何でもする息子が欲しい。私も何でもしてあげる」と、年端もいかない年齢でメラメラと激しく心に誓うのでした。その後、頭のおかしい家庭でケイトがどう育ち、鬼畜親父と兄達がどうなったのかは一切語られませんが、とにかく彼女は結婚し、願い通じて4人の男の子を授かりました。4兄弟は少年時代から盗みやレイプを繰り返し、それをケイトは一切咎めません。ケイトは息子達が成人になっても平等に代わる代わる一緒に寝て可愛がり、やがて究極のマザコン・ブラザーズが完成します。だが狭い田舎の村だけに、保安官に目をつけられ住みにくくなったケイトは、子を産む事だけが目的で結婚した種馬の旦那を捨て、息子達と村を出ていきます。
まず兄弟で一番体が大きく凶暴な長男ハーマンが、中年ドライバーを襲い喉を力いっぱい踏みつけ窒息死させ金品を奪います。その夜ハーマンは「人生初の殺し」に涙を流し、それを慮るケイトは「人生の嫌な瞬間よ」と、自らピアノを弾き全員に讃美歌を歌わせるのでした。コーマンはバーカー一家を冷酷非道に描かず、異常性の中にも人間味を持たせました。その芯となるのが、兄弟はホールドアップさせた男の目が青いと「パパの目と同じだ。運のいい野郎だ」と命を取らないで去る件です。捨てていった温和で優しかった父親を、兄弟達は思慕していたのです(泣)。
やがてハーマンと次男フレディがしくじって逮捕されます。ここで下のジョージとロイドを従えたケイトは、自らマシンガンを構え銀行強盗を働き、強奪した金で悪徳弁護士を雇い息子達を刑務所から出す事に成功します。勢い付いたケイトは、大資産家のバンドルベリーを誘拐し新アジトに監禁します。その際ハーマンの頭部への強打でバンドルベリーは目が見えなくなっていましたが、ケイトは「絶対に目隠しをとるな」と息子たちに謎の指示を与えるのでした。バンドルベリーは単なる金持ちではなく、肝が座っていました。あの短気なハーマンが、バンドルベリーの円熟した言動にはなぜか口答えできなくなるのです。何かを感じていたハーマンはケイトに内緒で、弟達が見守るなか目隠しを外します。誘拐の時は速攻で殴って気絶させ目隠ししたので気付かなかったのですが、バンドルベリーはパパと同じ青い目をしていました。兄弟達は監禁したバンドルベリーを世話するうちに、父性を感じ取っていたのです。これがケイトの一番怖れていた事でした。
身代金と交換の日、ケイトは金だけ取りバンドルベリーを森の中で始末するつもりです。「殺すのはやめようよ」と尻込みする下の息子達を見て、ケイトは長男ハーマンを殺害役に指名、やがて森の中から銃声が聞こえます。その夜ハーマンは「殺してないよ。逃がした」とケイトに告白します。ハーマンの顔を平手打ちするケイトは、直後に張り倒されます。ハーマンは「俺たちは大人になったんだ! 今後は俺がボスだ!」と宣言します。ボスの座交代の瞬間でした。
こうして大金持ちになったバーカー一家は、自然豊かな田舎町に家を買います。だがヤク中の末っ子ロイド(無名時代のロバート・デ・ニーロ)が薬物ショック死し、一家が悲しみに包まれる中、生還したバンドルベリーから情報を得ていた警察が、マシンガンを所持している彼らをバーカー一家と特定。続々と警官隊が村に集結し、彼らの新居を包囲した途端に銃撃戦が始まり、兄弟達も警官達も壮絶な撃ち合いでバタバタ死んでいきます。すると近所から集まって来た野次馬が、銃撃戦の目と鼻の先で地面にシートを敷き、運動会でも観ているような感じで見物しています(笑)。爺さんも婆さんも、小さな子供達から赤ちゃん抱いた若妻まで老若男女、誰かが撃たれるたびに「オー!」と歓声が上がり、中にはニコニコ笑ってる者もいます。ロジャー・コーマン演出、最高にオモロイです。そしてケイトは「チクショー!」とコウメ太夫のように絶叫しながらマシンガンを撃ちまくるのでした。
この強烈なギャングママのケイトを演じたのは、名女優シェリー・ウィンタース。『アンネの日記』(59年)、『いつか見た青い空』(65年)ではアカデミー助演女優賞、『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)でゴールデングローブ助演女優賞を受賞しました。作品は大ウケし、これは金になると思ったロジャー・コーマンは、兄弟を姉妹に変えてエロ度を増した『ビッグ・バッド・ママ』(74年)、さらに『クレイジー・ママ』(75年)と、しばらくママさんギャングもので稼ぎまくったのです。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。