もやもやレビュー

浮気相手はチンパンジー『マックス、モン・アムール』

マックス、モン・アムール(字幕版)
『マックス、モン・アムール(字幕版)』
シャーロット・ランプリング,アンソニー・ヒギンズ,ダイアナ・クイック,ビクトリア・アブリル,サビーヌ・オードパン,大島渚
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チンパンジーと浮気だなんてふざけた話だと思うかもしれない。しかしこの物語は決してお気楽なコメディではなく、むしろ大切な人との関係にヒビが入ったときにどう向き合うか、なんてことをふと考えさせられる。

大島渚監督の映画『マックス、モン・アムール』(1986)に登場するのはパリで暮らす裕福な一家。主婦、マーガレット(シャーロット・ランプリング)にイギリス大使館員である旦那のピーター(アンソニー・ヒギンズ)、そして小学生のひとり息子の3人家族である。裕福とは厄介なもので、マーガレットは一目で惹かれ合ったというチンパンジーの"マックス"を動物園から引き取り、彼とふたりで過ごすアパートをヒョイッと借り、お忍び生活をはじめてしまうのだ。マーガレットを怪しんで探偵をつけたピーターは、妻とマックスの浮気現場を目撃(!)。ここから物語が走り出す。

もちろんこれはフツウの浮気ではない。なぜ浮気をしたのか以前に、なぜチンパンジーと!?というところで理解に苦しむ。そんな状況なので、ピーターは混乱するわ嫉妬するわで狂いそうにもなるが、なんとかわかろうとし、マックスとの共同生活まで提案するので少し関心する。

隙あらば、「こんなものォ、僕の妻を奪いやがってぇ!」と怒り任せに銃だって向けられただろうが、ピーターはそうしない。ピーターも浮気しているから後ろめたいのだろうといわれたらおしまいだが(実際にしている)、一生懸命冷静になり、マックスの世話までする姿を見ると、なんだか人間捨てたものじゃない......と思ってしまう。もちろん浮気はよろしくないし、浮気発覚から幸せな展開はなかなか生まれにくい。でも、もしみんながみんな和解して、食卓を囲めたら......それはまたそれで健全かもしれない。そんな極端な考えがふと頭をよぎる、本当に不思議な物語なのである。

(文/鈴木未来)

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