やられっぱなしでたまるものか！『マッチ工場の少女』

『マッチ工場の少女』（1990）の主人公イリス（カティ・オウティネン）は、まわりからの扱われ方が悲しくなるほどヒドイ。マッチ工場で働く彼女は、その少ない給料で毎日両親にごはんを作り、家族を養っている。それなのに、たまには贅沢だってしたい！とお出かけ用のドレスを買うと、義父にほっぺたをペチンと叩かれ、母親には「返してきなさい」と突き放される。

返すものかと堂々とそれを着てバーに出かけたはいいが、そこで出会う裕福な男性がこれまたとんでもなくヒドイ。何せひと晩をともにしたことから彼に想いを寄せはじめるイリスに、「お前の愛情に微塵も喜びを感じない」と平気で口にしてしまうのだ。おまけにその晩からイリスは妊娠してしまうのだが、「そんな子堕ろせ」とだけ手紙に綴り小切手で済ませようとする。そしてとうとうイリスは、ある計画に出る。結末はまったくもって丸くはおさまらないが、イリスの「ある計画」をとおして、観ている側はいい意味で裏切られる。

本作は、労働者の庶民を主人公にし、あまりにも粋に、パンクに描き切るアキ・カウリスマキ監督の「労働者三部作」の三作目。良いことはほとんど起こらず、むしろ悲しいことばかりだ。ただそんな状況を描きながらも、カウリスマキ監督はイリスの味方についている印象を受ける。イリスの行動やバックで流れる音楽なんかから、そんな匂いがぷんぷんする。そっけない態度は、誰かの人生を揺さぶる力を少なからず持っている。でもやさしさや思いやりにも、そんなパワーがある。自分はどっちを周りに与えていきたいか。そんなことを静かに、粋に、問いかけてくるような気がするのだ。

（文／鈴木未来）