俺の豚を返せ。孤高のリベンジスリラー。 『PIG』
- 『ピッグ/pig(字幕版)』
- ニコラス・ケイジ,アレックス・ウルフ,アダム・アーキン,マイケル・サルノスキ
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弱きもの、愛するものの突然の不幸に怒りを激らせる復讐劇というのは映画でよく見られる主題のひとつだ。では、その相手が動物という場合はどうだろう。ほとんどの人がそうかもしれないが、やはり頭に思い浮かべたのは、愛妻から贈られた愛犬を失ったことで物語が動きはじめる『ジョン・ウィック』である。
では『Pig』はというと、タイトルの通り「豚」を失ったことで物語が動きはじめる。主人公はニコラス・ケイジ演ずる孤独な男ロブ。世を捨て、質の良いトリュフを売買し山奥で孤独に暮らしているのだが、彼を支えている唯一無二の存在がトリュフを嗅ぎ探すハンターの雄豚なのである。ある朝、その才能あふれる豚を何者かに略奪され、ロブは怒髪衝天。かつて暮らしていた訳ありの町に繰り出し、トリュフバイヤーの男アミールと共に手がかりを探す。
冒頭、慎ましい暮らしのなかでつくる料理シーンの手つきで、彼がかつて料理人であったことが読み取れる。『ジョン・ウィック』のように血まみれの奪回劇と思いきや、料理映画でもあるのである。
海外レビューサイトRotten Tomatesでは、支持率97%を記録。映画や本に造詣が深いオバマ元大統領が年間ベストに挙げていたり、ニコラス・ケイジも自身が演じた映画の代表と言えると語っている。
人嫌いというキャラクターの設定上、セリフ数は多くはないが、時折畳み掛けるように話す言葉ひとつひとつが胸にささる。横でそれを耳にするアミールの表情の移り変わりにもそれが現れ、心に染み入るラストへ。余韻の残る秀逸な作品。
(文/峰典子)