もやもやレビュー

自然を守るためにできることを考える。『悪は存在しない』

『悪は存在しない』 4月26日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、K2ほか全国順次公開

本作は『ドライブ・マイ・カー』で世界中で有名になった濱口竜介監督の最新作だ。この作品で第80回ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞した。

濱口監督はヴェネツィア映画祭、カンヌ映画祭、ベルリン映画祭のいわゆる3大映画祭のグランドスラムを果たした。さらにアカデミー賞を入れると黒澤明以来の快挙を成し遂げた。世界中が注目している監督の1人といえる。
そんな監督の最新作の舞台は、人口6000人の田舎町。そこにグランピング施設を建てる計画が舞い込んでくる。住人は水の汚染や山火事などを心配し反対する。

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とてもシンプルでわかりやすいストーリーだけど、そこには町に住む住人を目の前にしているようなリアリティがあった。私自身も鑑賞しながら住民説明会に参加している一員のような気持ちにさえなっていた。それくらい町の人々の気持ちに共感できた。

作品全体としては、静かな語り口の中に奥深さを感じたと同時に、少ない台詞の中に多くの情報と感情が入り混じり観客の胸に刺さるようだった。
登場する人物それぞれの目線の先には何が映し出されているのか、とても気になるようなシーンが多数あったのも印象的だった。それは、景色をみていてもその奥の先の方になにか隠されているのではないだろうか?という感覚。
1つ1つ芸が細かくて、段々と夜に近づき寒くなってきたことを示すシーンでは、それについての台詞はないけど白い息を吐き出すことで表現していたり、とにかくどのシーンも見逃せない。

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日本には世界に比べたら雄大な大自然なんて表現できる場所はなかなかない。だけど美しい景色やまだ開拓されていない場所が郊外にはある。その場所を都会の人が遊びに行く場所にするということは一体どういうことなのかを突きつけられたように思った。
そのまま残すことも大切だと気づかせてくれる作品だった。

(文/杉本結)

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『悪は存在しない』
4月26日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、K2ほか全国順次公開

監督・脚本:濱口竜介
出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、菊池葉月、三浦博之、鳥井雄人、山村崇子、長尾卓磨、宮田佳典/田村泰二郎
配給:Incline

2023/日本映画/106分
公式サイト:https://aku.incline.life
予告編:https://youtu.be/7tj7WaIDam4
© 2023 NEOPA / Fictive

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