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幸せ、それはなに?『シェルブールの雨傘』

シェルブールの雨傘(字幕版)
『シェルブールの雨傘(字幕版)』
カトリーヌ・ドヌーヴ,ニーノ・カステルヌオーヴォ,マルク・ミシェル,アンヌ・ヴェルノン,エレン・ファルナー,ミレイユ・ペリー,ジャック・ドゥミ
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「●●のため!」と思っての言動は度を超えるとただのお節介となり、さらにはその人の人生まで変えてしまうこともあるので、その力は侮れない。ジャック・ドゥミ監督の全編歌(!)の名作『シェルブールの雨傘』(1964)に出てくる強力なお節介マモン(フランス語で母を意味する)を観ていると、そう思う。

未亡人であるマモン(アンヌ・ヴェルノン)は17歳の娘、ジュネヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)とふたり暮らし。雨傘店を営んでいるが経営は不調、膨大な納税額に悩まされている。そんななか、ジュネヴィエーヴは自動車整備工のギイ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)と恋に落ちる。大好きでたまらなく結婚まで誓うが、戦争で兵役を務めるよう召集令状が届き、ふたりは2年も引き離されることになる。悲しみのどん底まで突き落とされるジュネヴィエーヴ......そこでお節介マモンの出番到来だ。

最初からギイのことがあまり気に入っていなかったマモンは、「忘れなさい」、「あなたは本当の愛なんて知らないのよ」と励ましにならない言葉を次々と口ずさみ、ギイの代わりに、宝石商の好青年を猛烈にプッシュ。ジュネヴィエーヴにギイとの子の妊娠が発覚(!)したって、「待ちましょう」なんて励ましもなく、寂しさで弱り果てたジュネヴィエーヴに宝石商ボーイをもうワンプッシュしている。オイ、オイ。そう突っ込みたくなる。

ただ、最愛の娘の幸せを思って、経済的に安定していて、やさしくて、とりあえず無難そうな相手を勧めるのは親としては当然のことかもしれない。とはいえ自分の意向にばかり重きを置いていると、いつしか相手の本当の幸せがすっかりおざなりになっていたりもする。幸せ、それは何?映画を通してそんな問いかけが浮かんでくるのと同時に、周りの影響力の強さにゲッとなるのである。

(文/鈴木未来)

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