シングルマザーを追い詰めたものは何か『子宮に沈める』

　2010年、実際に大阪で起きた二児餓死事件。これをモデルに作られた『子宮に沈める』は、「見た後に落ちる映画」という声がネットで多くありましたが、その一方で心に重要なメッセージを刻み込んでくるような作品でもありました。グロテスクなシーンがあるというわけでないものの、1人の女性が育児放棄をするまでが淡々と描かれているため、酷なシーンが続きます。

　本作で描かれているのは、幼い二児の育児をしっかりとこなす「いい母親」の由希子。なかなか帰宅しない夫から一方的に別れられたことをきっかけに、医療事務の資格を取るため勉強を始めるなど、子どもたちのことを考えて行動をスタートします。収入のために夜の仕事を始めた由希子は夜の世界で恋人も作り始め、やがて育児を放棄するように。

　本作では、由希子の育児放棄の中、幼い長女が弟の面倒を懸命に見ながらも、食べ物を一生懸命探す姿などが描かれています。心が痛んだシーンがたくさん。長女がテープで固めらたドアによって外に出られなくなり、おねしょをしてしまった後、自分で一生懸命タオルで拭くシーン。また、お腹が空いた弟がハイターを手に取り、それを姉が必死で止めるシーンは、もう絶句してしまうほどでした。

　子どもの面倒をしっかりと見ていた由希子が、どこで何がきっかけで育児放棄するようになってしまったのか、その境目みたいなものが全くはっきり描かれていないことから、これは「誰にでも起きうる心の闇」でもあるのかもしれないと感じた一本。育児放棄という言葉はニュースなどでよく耳にしますが、この社会問題に向き合うきっかけを与えてくれる作品です。

（文／トキエス）