新人監督が社会問題に切り込む!『ビニールハウス』
『ビニールハウス』 3月15日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
ここ最近みたサスペンスの中でも唸る一作を紹介したい。
本作はポン・ジュノ監督らを輩出した名門映画学校、韓国映画アカデミーの卒業生でもある新人監督のイ・ソルヒ監督が監督・脚本・編集を手掛けた長編1作目。
大ヒットドラマ『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』『Mine』のキム・ソヒョンは、新人監督のオリジナル脚本に魅了され、本作のムンジョン役で極限の感情表現を求められる新境地に挑戦。「名優の真価を発揮した」と批評家や観客を圧倒した熱演は、韓国のアカデミー賞と称される第59回大鐘賞映画祭を始め、韓国主演女優賞他6冠の快挙を成し遂げた。
ビニールハウスに暮らすムンジョンの夢は、少年院にいる息子と再び一緒に暮らすこと。引っ越し資金を稼ぐために盲目の老人テガンと、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士として働いている。そんなある日、風呂場で突然暴れ出したファオクが、ムンジョンとの揉み合いの最中に転倒。床に後頭部を打ちつけ、そのまま息絶えてしまう。ムンジョンは息子との未来を守るため、認知症の自分の母親を連れて来て、ファオクの身代わりに据える。絶望の中で咄嗟に下したこの決断は、さらなる取り返しのつかない悲劇を招き寄せるのだった。
本作のポスターは『パラサイト 半地下の家族』(19)になぞらえて、『半地下はまだマシ』と書かれている。
いったいどういうことなのかと思う人もいると思うが、『パラサイト 半地下の家族』(19)でも注目を浴びた韓国の住居貧困。元々は作物栽培のための農業施設であるビニールハウスもまた、不動産価格の高騰や経済の低迷により、正規の住宅を失った低所得者層、移民労働者が転がり込むなど、半地下や屋上部屋よりもさらに「最底辺」住居として社会問題となっているのだ。
この主人公ムンジョン、本当に抜け出せない負のスパイラルの中にいる。息子は少年院にいて、1人孤独にビニールハウスで生活していた。訪問介護士として誠心誠意、仕事をしていたにも関わらず起こってしまった事故。
どこの国でも起こっている老々介護問題。
認知症の奥さんを世話している旦那さんは盲目だったり、息子夫婦がいるけど頼れなかった環境が切なくて、テレビ電話だったり、本を音声読み上げ機能を使って読んでもらったりと、現代的なテクノロジーを駆使して生活しているところがリアルな感じがして現実味がでていた。
ビニールハウスで生活している人がいることに驚いたけれど、これがお隣の国で起こる社会問題なのだという現実。本作には、リアルな社会問題がそこら中に散りばめられているからこそ、人々の関心を引き本国では多くの賞を受賞する結果となったのだろう。昨今の物価の高騰に給料が追いついていない日本も人ごとではすまされないのかもしれない。
社会問題に目を向けながらサスペンスとしても楽しめる良作を映画館でじっくり楽しんでみてはいかがだろううか?
(文/杉本結)
『ビニールハウス』
3月15日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
監督・脚本・編集:イ・ソルヒ
出演:キム・ソヒョン、ヤン・ジェソン、シン・ヨンスク、ウォン・ミウォン、アン・ソヨ
配給:ミモザフィルムズ
2022/韓国/100分
公式サイト:https://mimosafilms.com/vinylhouse/
予告編:https://youtu.be/YObtty87oxA
© 2022 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED