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夫婦喧嘩の行く末にみる真実は!?『落下の解剖学』

『落下の解剖学』 2月23日(金・祝)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー

⻑編映画 4 作品目となる本作でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを獲得したジュスティーヌ・トリエ監督は、今作で初の栄誉となるゴールデン・グローブ賞も獲得。アカデミー賞にも期待のかかる『落下の解剖学』を紹介したい。

人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に殺人容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ〈真実〉が現れるが――。

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作品の中で描かれているのが、夫婦のリアルな夫婦喧嘩。それが録音されて残っていて、夫が死んだ後に法廷で流されるという、妻にとってなんとも不利な展開へと持っていかれる。この夫婦喧嘩の内容が、とても考えさせられるものだった。

夫婦2人とも物書きなのだが、妻の方が仕事は順調にいっている。忙しい中で時間を作って子どもの世話をするけれど、仕事がうまくいっていない夫の方が正直暇な時間が多い。そのぶん子育てへ使う時間が長くなり、自分の仕事に専念できていないように思って不満が募る。そんな生活の中でフラストレーションが溜まりにたまった末の夫婦喧嘩。

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現代の日本に色濃く残りどうにもならずにいる「女だから子育ての時間が長くなるのは当たり前」という考え方って、おかしくないですか?ということを考えながら、鑑賞していた。
共働きなら平等にしていくべきところ。この夫婦の場合、奥さんがほとんど子育てに時間を割いていない。こんな風に、どちらか一方に任せるというのは、時と場合によるが絶対に片方に不満がたまる。
そこは性別関係なく、やれる方がやるにしても限度があるようにも感じた。仕事と、家庭のバランスについてもすごく考えさせられるものだった。

子どもをもうけた以上、養育の義務は両親ともに果たしていくべきで、それはお金を稼ぐことなのか、愛を与えることなのかが問われている。
コロナ禍を経験してから、仕事の時間と家族との時間の見直しをする家庭も増えている。そういった意味でも、いま刺さる人が多いサスペンスに仕上がっている。
控えめに言っても本作、期待して良い。普段映画館で映画を観ない人にも、おすすめしたい作品だ。

(文/杉本結)

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『落下の解剖学』
2月23日(金・祝)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー

監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ
配給:ギャガ

原題:Anatomie d'une chute
2023/フランス/152分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/anatomy/
予告編:https://youtu.be/IsJS-MHgp6U
©2023 L.F.P. - Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma

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