タヒチ時代に焦点を合わせた、名画誕生ものがたり。『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』
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長かったことしの夏。ただひたすらに蒸し暑い日々に手が伸びるのは袖のないワンピースや、白いタンクトップ。それはまるでゴーギャンの絵に登場する女みたいな。いやはや、格好が似ているだけではなんとも。どうせ同じ暑さなら南の島に行きたい。そこでワンピースを着て歩きたい。そんなことをぼんやりと考えていた。
ゴーギャンは苦悩のアーティストである。パリの株式市場が大暴落し、総じて芸術家はそうなりがちな時勢ではあったが。
「いつの世も画家は生活に追われ時間とエネルギーを奪われる」そう話すゴーギャンは、まったく絵の売れなくなったパリを後にし、かつてから憧れていたポリネシアに向かおうとする。時系列で言うと、ゴッホとの共同生活を終えたころの話である。妻子には捨てられ、友人も付いてこず、金もない。
なにもかもを変えたいとタヒチに向かったゴーギャンが、悩まずに名画の数々を描き上げたわけでは、もちろんない。病に倒れ、苦しみのなかでもがき、愛にも悩まされる。生々しく、匂い立つような土地。ゴーギャンの絵。恋愛模様。いろいろなものが混じり合い、かの有名な『タヒチの女(浜辺にて)』『イア・オラナ・マリア』が生まれる。
監督はゴーギャンの紀行文『ノア・ノア』を面白く思い、制作を思いついたとか。ゴーギャンは数回におよびハイチを訪れているが、一回目の滞在で描いた作品は70点近く。その多くでモデルとなっているのが、現地で妻となるテフラという少女。この映画では彼女との関係性を中心に、名画誕生の瞬間を描いている。フィクションとして膨らませているところも多いようだが、これから先、ゴーギャンの絵画を見る目が変わるのは間違いない。
(文/峰典子)