もやもやレビュー

心霊ドキュメンタリー『ホスピタル』の拭えないヤラセ疑惑

ホスピタル Hospital
『ホスピタル Hospital』
Josh Folan,Natalie Wetta,Chris Perry,Keithen Hergott,Eleanor Wilson,Kieron Elliott,Ian Holt,Joe Smalley,Tess Smalley
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 今年はどうやら心霊ドキュメンタリーにとって記念となる年のようだ。
 まずは同ジャンルの元祖的存在である『ほんとにあった!呪いのビデオ』がシリーズナンバリング100作目到達を記念し、7月に『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』が公開された。

 また、心霊ドキュメンタリーのスタイルを踏まえつつ、その謎を追った末にとんでもない次元に到達してしまう『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズも、8年間の沈黙を破り劇場用新作『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』として復活する。

 実際のところ、同ジャンルの元祖がどの作品かというのはさまざまな意見があると思われるが、現在オリジナルビデオとしてリリースされているいくつものシリーズのフォーマットを作り出したのは『ほんとにあった!呪いのビデオ』で間違いないだろう。視聴者から寄せられた、偶然ビデオに収められてしまった心霊映像を集め、要所要所でスローになったり一時停止したりしながら何かが映っていることを、妙に落ち着いたナレーションと共に強調、しかしその怪異の正体が何かはほぼ判明することなく、不気味さを残したまま終わる、というものだ。

 心霊ドキュメンタリーは他にも『ほんとうに映った!監死カメラ』『境界カメラ』『心霊玉手匣』『Not Found ネット上から削除された禁断動画』『心霊曼邪羅』『心霊 〜パンデミック〜』などなど膨大な作品がオリジナルビデオとしてリリースされ、いずれもシリーズとして定着、最近では媒体をYouTubeに移した同趣向のシリーズも人気を集めるとともに、これら心霊ドキュメンタリー作品群のレギュラー取材陣が続々と登場して各作品がクロスオーバーしていく『心霊マスターテープ』というドラマまで誕生している。

 というところで気になるのは、こうした心霊ドキュメンタリーが果たして日本だけで流行しているのかどうかということだ。先に「同ジャンルの元祖がどの作品かというのはさまざまな意見があると思われる」と書いたが、野暮を承知で書けば心霊ドキュメンタリーは真の意味のドキュメンタリーではなくフェイクドキュメンタリーであるわけで、フェイクドキュメンタリーという大枠であれば当然世界中に多種多様な作品があり、中にはマンハッタンで怪獣が暴れ回る様子を逃げながらとらえた『クローバーフィールド/HAKAISHA』なる怪作すらある。

 が、心霊となるとどうなのか。一応、『パラノーマル・アクティビティ』や『グレイヴ・エンカウンターズ』といったそれなりのヒット作はあるが、日本のように超低予算を逆手にとってフットワーク軽くじゃんじゃん作って一大ジャンル化しているかというと、これがなかなか見当たらない。そんな中、一応超低予算かつフットワーク軽そうなのではないかと見つけたのが『ホスピタル』(2011年)という作品だ。

 本作では超常現象を科学的に解明し幽霊の不在を証明することで人気を集めているテレビ番組クルーが幽霊が出るという病院へ取材に赴くと、現場で幽霊の存在を実証しようとするグループと遭遇、対立しながら謎を解いていく様子を追う、一応は心霊ドキュメンタリー形式の作品だ。

 だが、和製心霊ドキュメンタリーでは当然のように行われる、あるいは行われない、ドキュメンタリーであることを前提とした見せ方が、『ホスピタル』ではまるで徹底されていない。ドキュメンタリーのつもりで見ていると、突然、劇映画風になったりするのである。一応、出演者がカメラ目線で愚痴をこぼしたりといったドキュメンタリーですよという目配せもあるにはあるのだが、次の瞬間にもうちょっと引いたところから彼らを映すショットになった途端、撮影スタッフの姿は消えたりする。今撮影していたのは誰なの? みたいな、心霊ドキュメンタリーとは別の違和感が連続するのである。

 で、こうしたことが繰り返されるうちに、あ、これ、やらせじゃん! という感覚がどんどん強くなっていく。そもそもフェイクドキュメンタリーなんだけど、かつて嘉門達夫が嘉門タツオ時代に歌っていた「ゆけ!ゆけ!川口浩」の一節「川口浩が洞くつに入る カメラマンと照明さんの後に入る」みたいなことが頻繁に起こりすぎるのである。フェイクならフェイクでドキュメンタリースタイルは徹底して欲しいという気持ちがひたすら強まっていくばかりだ。

 そんなわけで、フェイクドキュメンタリーという大枠はともかく、心霊ドキュメンタリーは日本独自の発展を見せているものなのかもしれない、なんてことを、たった一作見ただけで断じてしまうのが乱暴なのはわかっているのだが、見たら誰もがそう思ってしまうであろう作品、それがこの『ホスピタル』なのであった。口直しにこの後、和製心霊ドキュメンタリーを何か見ることにします。

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田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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