もやもやレビュー

なんでもない日々は美しい『パターソン』

パターソン(字幕版)
『パターソン(字幕版)』
アダム・ドライヴァー,ゴルシフテ・ファラハニ,永瀬正敏,バリー・シャバカ・ヘンリー,チャステン・ハーモン,ジム・ジャームッシュ
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 なんでもないような日々には、"美しい詩"がつまっているのかもしれない----。ジム・ジャームッシュ監督の映画『パターソン』を観て、今、過ごしている時間が愛おしく思えました。本作は、いわゆる「映画」「ドラマ」のような劇的な展開があるわけではなく、バスドライバーの平凡な一週間を映し出した、なんとも不思議な作品でした。

 アダム・ドライバー演じるパターソンは、月曜日の朝、恋人のローラの隣で目を覚まします。彼女から双子の夢を見たと聞き、朝食を食べ、バスの車庫まで歩いて行きます。バスを出発させるまでの時間には、ノートに詩の断片を書き留めるパターソン。そうしたゆったりとした時間も束の間、「調子はどう?」と上司がやってきて、悪いことばかり起きる悲観的な短いストーリーを聞かされます。バスを出発させ、乗客のたわいもない話を聞き、そんな時に自然と双子に目がいってしまう。そんなありふれた日常を送る、控えめな性格のパターソンの一週間とは......。

 パターソンとローラは正反対なキャラクターで、ローラはカップケーキを作ったり、カーテンを手作りしたり、突如ギターを始めたり、好奇心旺盛で、自由に自分を表現しています。そんな彼女に「素敵だね」「いいね」と同意しながら、自分は秘密のノートに詩を書いて満足しているパターソン。前述した通り、典型的な映画のような劇的なことは何も起こらないものの、パターソンが書く詩と共に観るパターソンの日常は、とてつもなくあたたかいのです。

 ちなみにアダムは、パターソンを演じるにあたり、実際にバスの運転教習所に通ったそう。制作スタッフが、アダムにバスの免許を取得させようと手配していたところ、彼はすでに行動を起こし教習所に通っていたのだとか。『スター・ウォーズ/スカイ・ウォーカーの夜明け』のカイロ・レイなどを演じてきた実力派俳優アダムが演じる"平凡なバスの運転手"にも注目。

 (文/トキエス)

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