もやもやレビュー

クマを愛しすぎた故の悲劇。『グリズリーマン』

グリズリーマン (Grizzly Man)
『グリズリーマン (Grizzly Man)』
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 クマを愛し、クマになりたいと願っていた保護活動家でクマ愛好家の、ティモシー・トレッドウェル。彼は、グリズリーベアに夢中だったことから、グリズリーマンとも呼ばれていました。そんな彼は、自然をこよなく愛し、自らの活動をハンディカメラに記録していたのですが、ある時、グリズリーベアに襲われて死亡してしまいます。そんな彼の生前の活動や、残虐な現場に残された映像から作られたドキュメンタリー映画『グリズリーマン』を今回はご紹介します。

 グリズリーマンことティモシーは、2003年に人里離れたアラスカの荒野で、クマの研究のために、恋人と滞在していました。彼はクマを愛しすぎ、クマは「親友」と信じすぎたことにより、「クマから100ヤード以上近づいては行けない」というアメリカの公園管理者の規則を破ってしまうのです。そして、クマに「チョコレート」や「ブラウン」などの可愛い名前をつけて、鼻を撫でるなど常識では考えられない行動をします。そして、その勇気から「クマから尊敬されている」という考えに執着していくティモシー。そして、彼は公園管理者や政府に対しても恨みを持つようになり......。

 13年にわたって、クマと過ごしてきた経験がある"ベテラン"のティモシー。2003年のアラスカ滞在も、彼にとっては素晴らしい経験となるはずでした。しかし、恋人のエイミーとともにクマに襲われ、完全に捕食されてしまうのです。本作では、ティモシーの家族や親友などのインタビューも含まれており、彼が一体どのような人物だったのかが明らかにされていきます。

 本作で私が一番魅力的に感じたのは、ティモシーと野生のキツネたちとの交流。彼に懐くキツネの姿を見ると、まるでディズニー映画のように動物との強い絆を作ることは可能なのではないかという考えも持つことができます。しかし、野生の動物との間にある一線を超えてしまったティモシーは、「動物は友達」という考えに固執してしまった故に、危険な行動を続けてしまう......そんな彼の姿を見ていると、人懐っこいから、おとなしいからという理由で、「動物は友達」と理解するのは、実は大きな勘違いなのかもしれないということを思い知らされました。

(文/トキエス)

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