【無観客! 誰も観ない映画祭】第22回『野獣死すべし』
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- ルチオ・フルチ,ファビオ・テスティ
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『野獣死すべし』
1980年・イタリア・98分
監督/ルチオ・フルチ
脚本/ルチオ・フルチ、エットレ・サンゾ、ジャンニ・デ・キアラ、ジョルジオ・マリウッツォ
出演/ファビオ・テスティ、マルセル・ボズフィ、イヴァナ・モンティほか
原題『Luca il contrabbandiere』
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『野獣死すべし』の松田優作、カッコよかったですね~。作品は大藪春彦原作の人気小説ゆえ、優作版(80年)の他にも仲代達矢版(59年)、藤岡弘版(74年)、木村一八版(97年)と数度に渡って映画化されました......が、それらとは無関係で話も全く違う、タイトルが同じというだけのイタリア映画を紹介します。原題を直訳すると『密輸業者ルカ』ですが、日本のビデオ会社が邦題を付ける際、同年公開のヒット作を何の捻りもなく丸パクリしたのです。内容はポリツィオテスキと呼ばれるイタリア製犯罪映画で、監督は「マスター・オブ・ゴア(血糊)」の異名を持つルチオ・フルチでした。
ルチオ・フルチは、マカロニウエスタンの名作『真昼の用心棒』(66年)、閉鎖的な僻村で起きる背徳ミステリー『マッキラー』(72年)などを経て、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(78年)に便乗した『サンゲリア』(79年)を撮ります。しかしこれが単なるパチモノに終わらず、世界中のホラーファンを狂喜させ予想外の大ヒット。続けざまに撮った『地獄の門』(80年)、『ビヨンド』(81年)と合わせたゾンビ映画三部作は、フルチを一躍ホラー界の巨匠に押し上げました。その合間にフルチが初めて撮ったポリツィオテスキが本作で、ゾンビ映画の巨匠が犯罪映画を撮ると一体どうなるのか? とても解りやすい納得の結果が得られました。
主人公のルカは、ナポリの裏社会で密輸タバコを担当するセクションの幹部でした。密輸は港で行われ、冒頭で警察と組織のカーチェイスならぬモーターボートチェイスがあります。実はそのボート、実在するナポリの密輸組織が貸してくれた本物の密輸船で、構成員もエキストラに提供、予算が足りなくなると資金援助までしてくれたそうです。見返りとして、しっかり内容に口を出したというから大らかな時代です。なんでも当時のナポリは20万人の貧困層が密輸の恩恵を受け生計を立てていて、ルカ達は庶民にとっては必要悪でした。
ある日ルカは、競馬界を仕切る兄を殺し屋に目の前で射殺されます。ルカは兄と仲が悪かったライバル組織のボス・シェリーノを疑い、単身で殴り込みます。用心棒を煮えたぎる硫黄泉に叩き込んだルカは、その遺体をシェリーノの家の窓から「ガシャーン!」と投げ込みます。ゴロンと転がった用心棒の煮沸したドス黒い顔がアップになり、両目は煮魚のように白濁しています。「ああ、ルチオ・フルチだ」と思った一発目のシーンでした。だがシェリーノには身に覚えがなく、オトシマエのリンチで命だけは勘弁してもらったルカは、身内に裏切り者がいるのではと改めて真犯人を探します。それにしても時おり劇中に挿入される、大邸宅に住み一日中ソファーに座り、テレビでギャング映画や西部劇を観ている冴えない老人は誰なのでしょう。彼が黒幕なのでしょうか?
その頃ナポリの片隅で、フレンチコネクション(フランスの麻薬密売組織)のボス直々に麻薬の取引が行われていました。女性の運び屋がジッパーを下ろし下着に手を入れ、股間に隠したブツのサンプルを引き抜きボスの部下に渡します。だがブツの精度が低かったため、怒ったボスは女の顔をガスバーナーで炙り始めます。ここはルチオ・フルチ、顔の皮膚が焼け爛れていく過程を念入りに描きます。実はこのフレンチコネクションのボスが、ルカの組織を乗っ取ってナポリに進出しようと企んでいたのでした。その後もフルチ節は絶好調です。口に銃を突っ込まれ後頭部から脳ミソ噴出! 撃たれた喉に大穴が開くわ顔面の半分が吹っ飛ぶわと、人体損壊描写の数々が『サンゲリア』同様に気持ちよ~く楽しめます。
さて、密輸組織の幹部を殺しまくったフレンチコネクションは、最後の一人になったルカの夫人を拉致します。猿ぐつわで口を封じられた夫人は暴力を振るわれ、受話器を通してルカに呻き声が聞こえてきます。フルチ作品には無名ながらも魅力的な女優が多く、この夫人役イヴァナ・モンティも実にイイ女です。組織を売る事を拒否するルカに聞こえるように、「もっと屈辱を」とボスは部下に告げます。強面男が無表情で、テーブルの上に寝かされた夫人をレイプします。受話器から聞こえてくる「ン~! ン~!」という呻き声に、ルカは成す術ありません。さらにボスは「裏返せ」と冷酷に命じます。うつ伏せに押さえつけられた夫人を男が後ろから犯すと、彼女の呻き声が悲鳴に変わります。アナルファックでした。足をカエルのように開いた尻だけが動いている図を真上から映すという、フルチしかやらない変態的なこだわり演出です。
このギャング同士の抗争に、ルカの組織を追ってきた刑事も「彼らの組織が潰れると、それで食ってきた市民が麻薬や強盗に手を出し、ナポリの経済・治安が崩壊する」と本音で憂慮します。ここからの結末はネタバレでいきます(裏切り者が誰かぐらいは内緒にしておきましょう)。この危機に予想外のヒーローが現れます。引退して余生を送っていた地元の老ギャング達が久々に銃を手に取り、自分達の町を我が物顔で歩くフランスギャングを次々と一掃していくのでした(その中にはフルチ自身もカメオ出演!)。思わぬ助っ人を得たルカは、ボスを直接対決で倒してゴミ溜めに叩き込み、夫人も警察に保護されます。
事件収束後、あのテレビばかり観ていた老人が散歩しているのを刑事が見つけます。「ルカを知っているな」という刑事の問いに「何の事でしょう」としらばっくれる老人の名はドン・モローネ。かつてナポリを牛耳っていた大ボスだったのです。彼の一声で昔の部下達が立ち上がり、ナポリに麻薬が蔓延する大ピンチをアッという間に解決してしまったのです。刑事もドンの鮮やかな逆転劇に内心ホッとし、彼らを見逃して無かった事にするのでした。どちらもカッコイイ~。ドン・モローネには、『ゴッドファーザー』(72年)のマーロン・ブランド扮する麻薬嫌いのドン・コルレオーネが被ります。『野獣死すべし』というよりは、ルチオ・フルチ版『ゴッドファーザー』という事でしょうか。ルチオ・フルチのゾンビ映画が好きな方なら楽しんでいただけるでしょう。気になった方は、ぜひディスクで監督を探してみましょう。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。