最近の自分、思いやりが足りないかもと感じたら『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
- 『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ [DVD]』
- ジミー・フェイルズ,ジョナサン・メジャース,ロブ・モーガン,ダニー・グローヴァー,ジョー・タルボット
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ある若い男性が幼い頃に暮らしていた家を毎日のように訪れ、現在の居住者の目を忍び、外観の手入れをしている......そう耳にしたらただの不法侵入者じゃないか、と心配になるかもしれない。『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(2019年)に出てくるジミー(ジミー・フェイルズ)は、まさにこの若い男性である。ところが彼が窓の縁の禿げかけたペンキを大事そうに塗り直している姿を見ると、この家が彼にとってものすごく大切な場所であることがすぐにわかる。そこには彼がいまや離れ離れに暮らす家族とのわずかな思い出が残っており、退去して数年が経った今も、大切な場所として彼の胸に刻み込まれていた。
ある日居住者が立ち退くと、再び家を自分のものにできる希望がジミーのもとへと舞い込む。ところが家が佇むサンフランシスコの住宅相場は高度成長によりすっかり高騰。物件を買いたくてもジミーの稼ぎでは手が出ない。さてジミー、どう出るか。
根幹にある「家を取り戻す」という目的は一見シンプルに聞こえるものの、そこに向かう過程では高度成長を理由に居場所を奪われる低所得者たちの現状をはじめ、さまざまな社会問題と人々の心情が入り組む。そんななかどうも心を奪われてしまうのは、ジミーの思いをすっと受け止め、時折笑いを提供しながらそばで支える親友のモント(ジョナサン・メジャーズ)だ。もっとやさしくありたいと思ったときには彼に注目しながら物語を追っていくと、見えてくるものがあるかもしれない。
(文/鈴木未来)