もやもやレビュー

強情な人にも弱みがある『ファントム・スレッド』

ファントム・スレッド [Blu-ray]
『ファントム・スレッド [Blu-ray]』
ダニエル・デイ=ルイス,ヴィッキー・クリープス,レスリー・マンヴィル,ポール・トーマス・アンダーソン
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
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ひとりひとりの人間に説明書がついていたら、好奇心のあまりちょっと覗いてしまうと思う。でもきっと、ページ数は相当なものになる。なにせその日の気分や一緒にいる人によって、人の態度は多少変わってくる。でも『ファントム・スレッド』(2017年)に登場する超一流の仕立て屋、レイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)の習性は、人によっても環境によっても時を経てもブレないので、彼の説明書はページ数が少なく済むかもしれない。最初のうちはそう思っていた。

まず、ドレスづくりが彼のなかで第一にある。仕事の邪魔をするものには怒りをしっかりとぶつけ、そこには「もう二度と同じことをしないように」という暗黙の了解が生まれる。要は自己中心的で、「僕の生活が気に入らなければ、クソくらえ」とすら思っている。

そんな彼の習性を細部まで理解しているのが、姉のシリル(レスリー・マンヴィル)。一方、彼の習性がわからず、堂々と地雷を踏みまくるのが、彼の新しい恋人、アルマ(ヴィッキー・クリープス)。一目惚れなのか。レイノルズは出会ってすぐに彼女を家に住み込ませ、彼女は瞬く間に彼のミューズになる。すっかり家に住み着いたアルマはレイノルズが恋しくてたまらないわけだけど、ドレスづくりが常に優先されるなかで、彼女は二の次、三の次。彼との愛情を深めるにはどうしたらいいのか。そう考えた末、彼女はワルイ手を打つ。その後、徐々に変わる二人の関係性には、困惑と衝撃が入り混じる。レイノルズの説明書にページ数が追加されることは、間違いなさそうである。

(文/鈴木未来)

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