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自然の中に身をおいて考える今後の人生『ノマドランド』

『ノマドランド』 3月26日(金)全国公開

本作はゴールデングローブ賞で最優秀作品賞(ドラマ)、最優秀監督を受賞した。アカデミー賞でも主要部門の作品賞、監督賞、主演女優賞にノミネートされ、全6部門のノミネートをはたしている。
クロエ・ジャオ監督は、Netflixで配信された前作「ザ・ライダー」でも現在を生きるカーボーイの姿を描いた素晴らしい作品で驚かされた。また、次回作はMarvel映画『エターナルズ』の監督にも決定している。今、最も世界中で注目されている監督であることは間違いない。

本作の原作はジェシカ・ブルーダーの「ノマド 漂流する高齢労働者たち」である。
ノマドとは遊牧民を意味し、本作中で主人公ファーンはリーマンショックの影響で家を失い「現代のノマド」となる。家を持たず車で生活をして短期間または日雇いの仕事などをしながらその日暮らしをする姿が描かれる。1220mの雪山であるエンパイアでの車中生活は過酷なものだった。暖かい地域へと移動をするファーンに何度か屋根のある生活の誘いがくるけれどなかなかOKしない。その心中を語ることはないけれどそっと観客に伝えるテクニックは素晴らしい。

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作品のなかに登場する「家とは心の中にあるもの」という台詞がとても印象深かった。ノマドの選択をする人は高齢者が多く、最初から家がなかったわけではない。以前は普通に街で働いていた人も多くいる。みんな心のどこかに大切な人を失った悲しみや喪失感などを抱えて生きている。鑑賞中にふと頭をよぎるのは私にとっての家とはなんだろう?という問いかけ。家族が居る場所という答えが出たときに作品に戻って考えると、大切な家族を失ってぽっかり心の穴があいた人々の姿があった。不安を抱えた人々が集まれる場所のひとつの選択肢としてノマドというものがあるのか。自然の中にぽつりと一人でいる、大事な人を失ってからの生き方を考えさせられる。これではネガティブな印象になってしまうかもしれないが、そればかりではない。

車で移動する中で感じる自然はまさにパワースポット巡りをしているような感覚になる。「星、森、石、海、惑星、空、太陽、砂漠」登場するすべての自然からパワーをもらうことが出来るという教えがある。キレイな空がどこまでも広がる背景が美しく、常に自然の中にいる作品なので、みたこともない色の夕焼けや夜空が広がる。これは是非とも大きなスクリーンで鑑賞したい!

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そして、本作の最大のテーマは「人生を後悔しない生き方」ではないだろうか。馬車馬のように働く毎日は年老いてふと思い返した時に幸せなものだったと言えるのだろうか?大人になり、家族が出来て将来の経済的な不安を抱えて生きていくことへのストレスは誰しもが少なからずあるだろう。それでも家族がいるから、どこかに疑問や不安があったとしても働き続けている。人生は長いようで長くない。本作の台詞を引用すると「時間を無駄にするな」がまさにあてはまる。自然の中に身を置いて自分自身と向き合うことはとても大切なことだ。ノマド自体は身近な存在ではないが、その人達が抱える不安や悲しみ、喪失感に共感する人は多いはず。自分自身でノマドランドで生きていくことを選択した人々の姿にはなにか少しふっきれたような力強ささえ感じられる。
大自然の中で大きな大きな深呼吸がしたくなるような作品であった。

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アカデミー賞の授賞式より前に日本では映画館で鑑賞出来る作品の一つ。大きな声で映画館へとは言えないのが悲しいけれど、配信作品も多くノミネートされているのでそちらもあわせて楽しみながら受賞結果を楽しみに待ちましょう。

(文/杉本結)

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『ノマドランド』
3月26日(金)全国公開

監督・脚本:クロエ・ジャオ
原作:「ノマド:漂流する高齢労働者たち」(ジェシカ・ブルーダー著/春秋社刊)
出演:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

原題:Nomadland
2020/アメリカ/108分
公式サイト:https://searchlightpictures.jp
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

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