もやもやレビュー

葬儀に通うという趣味で結ばれる『ハロルドとモード』

ハロルドとモード/少年は虹を渡る [Blu-ray]
『ハロルドとモード/少年は虹を渡る [Blu-ray]』
ルース・ゴードン,バッド・コート,ヴィヴィアン・ピックルズ,シリル・キューザック,チャールズ・タイナー,エレン・ギア,ハル・アシュビー
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なんにも予定がない日には、何をして過ごすだろう。時間が許す限りテレビを見続ける人もいれば、ミツバチの生態について調べ出す人もいるかもしれない。『ハロルドとモード』(1971年)の主人公、ハロルド(バッド・コート)は、暇さえあれば、死にまつわる何かをしている。たとえば知らない人の葬儀に参列したり、あの手この手を使って偽の自殺行為を演出したり、などである。ハロルドの母親(ビビアン・ピックレス)は彼の偽自殺には慣れっこで驚きもしないけれど、鑑賞している側は全く慣れていないので、時折ゴクリと息を呑んでしまう。

いつものように参列したある葬儀で、ハロルドは79歳のモード(ルース・ゴードン)に出会う。彼女も時間があれば、知らない人の葬儀に顔を出すらしい。でも、モードにはハロルドの陰気さはまるでない。突然歌い出したり、踊り出したり、公道に植えられた木がかわいそうだからと、森に植え直したり...つねに笑顔を絶やさず、自由奔放なのである。どんなときも楽しむことを忘れないモードと行動をともにしているうちに、ハロルドの興味は死から生きることにゆっくりとシフトする。冒頭では血色があまりよくなかったハロルドの唇も、映画が進むにつれてほんのり赤くなっていく。意気消沈しているときは特に、ハロルドになった気持ちでモードにすっかり励まされてしまう映画である。

(文/鈴木未来)

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