家から一歩も出たことがない、20代男女の生活『籠の中の乙女』
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- クリストス・ステルギオグル,ヨルゴス・ランティモス
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子供に説明するにはまだ早すぎる...そう判断した親は、つくり話でその場をしのいだりする。私の友人は幼いころ、「私って、どうやって生まれてきたの?」と親に聞いたところ「カッパの家族から譲り受けたのよ」と言われたらしい。でも、賢くなること、そして「そんなわけないじゃん」と指摘する仲間ができたことによって、その子はやがて実の理由を知ることができた。
親のつくり話を信じ込んだまま大人になると、人間どうなるのか。ヨルゴス・ランティモス監督のギリシャ映画『籠の中の乙女』(2009年)では、「外界は危険」という両親の言葉を信じて、20年以上家から出たことがない長女、次女、長男の三人兄妹の姿が描かれている。彼らの当たり前は家のプールで泳ぐこと、勝者にはステッカーが贈られる「娯楽の選手権」に参加すること、など。家から出られないのが異常であるとバレないように、テレビやスマートフォン、ラジオなどの情報網は排除されている。さらには家庭内にないモノ、人、景色を表す言葉は、意味を変えて彼らに教えられる。おかげで長男は「ママ、外にゾンビ(=黄色い花)がいるよ!」と言い出す始末。つくり話が一切バレなければ平穏な生活に見えなくもないが、長女は外の世界からあるビデオテープを入手してしまう...。
閉ざされた世界で育った彼らの振る舞いは、やや不気味。でも、言ってしまえば自分だって、ある意味限定された知識をもとに行動したり、発言したりしている。家に閉じ込められているわけではないけれど、ひとごととも言い切れない境遇のような気がした。奇妙なストーリーを欲しているときにはぴたりとはまる一本である。
(文/鈴木未来)