もやもやレビュー

物理的な距離と心の距離を考える『37セカンズ』

『37セカンズ』 絶賛公開中

日本では今年の2月から劇場公開されている本作。映画関係者の中でもこの作品は「まだ今年始まったばかりだけど早くも今年のトップ10候補!」という声を多く耳にしていた。海外では日本よりも早くNetflixで鑑賞できるようになっていたようで海外のレビューサイトでも高評価でとても気になっていた。日本では劇場公開とあわせて、Netflixでも鑑賞出来るようになっている。

生まれたときにたった37秒間呼吸が止まっていたことが原因で、足が自由に動かない脳性麻痺となった主人公ユマ。親友の漫画家のゴーストライターとして働き、自分の作品を世に出せないことに複雑な気持ちを抱え、障害のある娘に生活の全てを捧げる過保護な母親との2人暮らしにも息苦しさを感じている。
自身が抱えるハンディキャップから狭くなっていた視野をある人物との出会いをきっかけに少しずつ見たことのない世界へと足を踏み入れてゆく。
後半は序盤からは想像のつかない人たちと出会い、思いもよらぬ展開でドラマティックにひとりの女性の成長を描いている。

鑑賞後、控えめに言っても「今年のトップ10候補に間違いない!」作品であった。
「STAY HOME」を呼びかける今だからこそ家での過ごし方を有意義なものにしたいと思う人も多いはず。その中で映画をみる人も急増しているようだ。せっかく映画を見るのなら実りある時間になったらという思いでこの作品をオススメすることにした。

主人公のユマを演じていた佳山明さん。実際に車いすに乗って生活をしているそうで、だからこそ出来る車いすを使った速さや細かな動きからみえる感情表現にリアルさを感じることが出来た。序盤は聞き慣れないか弱い声に少し戸惑いを感じたが、ストーリーが進むにつれて、少しずつ意思を持った言葉の中にある自信を感じられるようになってくる。
そんなことを計算して製作したのかどうかわからないが、ストーリーの中に登場する一つ一つの世界は、どこまでも深くリサーチして製作されたのだろうというほど生々しくリアルである。これが初監督作品というから驚き。今後のHIKARI監督からも目が離せない。

この映画の登場人物は一人一人がものすごく個性的で印象には残るけれど、絶対的な主人公の存在をぼやかすことはなくそこにいるという、簡単そうだけどとてもとても難しいバランスを綺麗に保っている。
これは監督の緻密な計算とそれを演じた役者の演技力があってこそなせるものだろう。
神野三鈴さん演じるユマの母親は「人生全てを娘に捧げています!」と言葉では言わないけれど、インパクトのあるイントロだけでその全てを観客側に伝えている。
母親とそれほど年も変わらないであろう風俗嬢を演じる渡辺真起子さん。これはもう他の役者さんでは変わりがきかないと思えるほどの適役であった。
ユマの親友を演じた、萩原みのりさん。この女優さんもこれからの活躍が期待できる注目株! 今後公開される『街の上で』という作品と全く違う雰囲気で、同一人物と気がつかなかったほどだ。可愛いけれど近くにいそうな距離感をスクリーンから感じられる魅力がある。
本作に登場する数少ない男優であり、作品のキーマンとも言えるヘルパー役を見事に演じきったのは大東駿介さん。主人公と行動を共にするのだがそこに彼の存在感は一切ない。近くにいてきっと思うことも色々あるだろうけど、ユマになにか助言をすることもなく、ずっと横に一緒にいてくれる。その距離感は心地よく、恋愛に発展するかもとか余分なことを考えることすらなく終われた。

最近の私たちは、人間と人間の距離感を考える。それは物理的な距離だけではなく、心の距離を測るよい時間になるといい。今だからこそみてほしい作品だ。

(文/杉本結)

『37セカンズ』
絶賛公開中

監督・脚本:HIKARI
出演:佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、芋生 悠、渋川清彦、宇野祥平、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏
配給:ラビットハウス、エレファントハウス

原題:37 Seconds
2020/日本/115分
公式サイト:http://37seconds.jp/
© 37 Seconds film partners

37sec_B2_28_FIX.jpg

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND 映画部!

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム