ちゃんとした王道サメ映画『ロスト・バケーション』
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美しい映像と手に汗握る感覚に、自分は本当にサメ映画を観ているのだろうかと疑わしくなる気分にさせられた。数多のサメ映画が出オチで失笑させにきているのに対し、本作は無駄に血のりを無駄遣いしたり斬新な殺され方をしたりというコメディではなく、パニックホラーとして成立している。当たり前のことなのに感動してしまう辺り、昨今のサメ映画のノリは一体何なのかと考えてしまう。あれはあれで味わい深いのだが。
メキシコへ旅行に来た女子医大生の主人公が、亡くなった母親の思い出であるメキシコのビーチに旅行し、サメに襲われ岩の上に避難。しかし満潮が近づき岩は徐々に海面に埋もれ......という内容。そのため、基本的に主人公とサメしか出てこない。サメが派手に人を惨殺して回ることもなく、襲撃シーンは淡々と描かれている。しかし、それゆえ主人公の恐怖がダイレクトに伝わる良作だった。
冒頭で浜辺に打ち寄せられたカメラには主人公が助けを求める映像が残っているという、死亡を予感させるものとなっている。サメに一方的に食われてしまうのだろうかと思うことで恐怖感は増大される。
結局は主人公が知恵と勇気を出して海底の錆びた柵を用いてサメを撃退するというご都合主義な終わり方なのだが、終盤まで緊張感あふれる内容だったために却って爽快感すら覚える。ところどころ雑な設定があっても大きな問題ではない。
サメ映画といえば頭がたくさん付いていたり、竜巻の中から襲い掛かってきたりと冗談のような作品であふれているが、元祖である『ジョーズ』は恐怖と緊張感を煽り、最後の最後でカタルシスを与える映画だった。ネタに走りがちなサメ映画において、久々に王道の作品となっている。
(文/畑中雄也)