もやもやレビュー

気高く美しいダンサールドルフ・ヌレエフ『ホワイト・クロウ』

映画『ホワイト・クロウ』はTOHOシネマズ シャンテ、シネクイント、新宿武蔵野館ほかにて公開中!

日本ではなじみの薄い人もまだまだ多いバレエ。そんなバレエダンサーを語るのに欠かせない一人としてルドルフ・ヌレエフがいる。1961年、まだ冷戦のさなかにソ連から公演の為にパリの地に足を踏みいれることとなったキーロフ・バレエの一員の中に彼の姿もあった。彼の活躍は政府にとって目につく言動が多くラストの大きな決断を下さねばならない緊迫のシーンへと繋がっていく。

sb1.jpg

「どうして観客はバレエを観劇しにやってくるのだろうか?」そんなやりとりをルドルフと教師のプーシキンが語り合うシーンは、どの分野にもあてはまるようなやりとりだと感じた。完璧な技術をみせられたとしても、そこに込められる独自の感情表現がなくてはダンスは完成しない。物語を理解し表現することが最も大切なのだ。確かに正しい動きさえすれば良いのなら現代の技術をもってすればバーチャルな世界でいくらでも見ることが出来るだろう。そこに、役者としてどのように魂を吹き込んだのかを生で見たくて、観劇する人があとをたたないのだろう。

sb2.jpg

ルドルフがどうして伝説的なダンサーと呼ばれたのかいくつか理由はあるのだが、男性が女性の動きをバレエに取り入れた点は当時見たことがなく、観客を驚かせることとなった。そして、彼は芸術や文化、街並みから多くを感じ取り、自分の幼少期と重ね合せることでバレエの表現力の糧としていた。そのことを映画の中ではエルミタージュ美術館やルーヴル美術館など実際の場所で撮影をするという本物志向により、より観客に伝わりやすい形とした。

この一連のやりとりの中で日本人にもなじみ深い競技「フィギュアスケート」に共通点が多いと感じた。ひとつの曲を選曲しその曲の中にある物語を氷上で表現する。フィールドは違えど、バレエの精神と通ずるものは多い。そのためか、海外メディアでは羽生結弦の引き合いにルドルフの名前が出されることが多い。ルドルフが海外では超有名ダンサーなのは間違いない。
この映画を機にルドルフ・ヌレエフという一人のダンサーの生涯と出逢ってみることをおすすめしたい。

(文/杉本結)

***

sb3.jpg

『ホワイト・クロウ』
TOHOシネマズ シャンテ、シネクイント、新宿武蔵野館ほかにて公開中!

監督:レイフ・ファインズ
出演:オレグ・イヴェンコ、アデル・エグザルホプロス、セルゲイ・ポルーニン、ラファエル・ペルソナ、ルイス・ホフマン、チュルパン・ハマートヴァ、レイフ・ファインズ
配給:キノフィルムズ/木下グループ

原題:The White Crow
2018/イギリス=ロシア=フランス/127分
公式サイト:http://white-crow.jp
© 2019 British Broadcasting Corporation and Magnolia Mae Films

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム